インドで自社商品を販売するには、自社商品の特性、ターゲットとなる顧客、どの程度インド市場にコミットするのか(どれだけ予算を割けるのか?)などによって採れる戦略の組み合わせが変わります。参入する時期や、周囲の環境により刻々と参入の際に採るべき戦略は変わってきます。以下、戦略を検討する際に重要となる10のポイントをまとめました。
1. 自社拠点、代理店、販売店の活用
インド側にどのような拠点体制を構築するのか?自社拠点を設立する場合には、ビジネスモデルや拠点の維持コスト、利益の還流方法などを考慮しながら現地法人とするのか、または駐在員事務所や支店のような形態にするのかを検討する。加えてインド全土を自社拠点のみでカバーできる体制を構築するには時間も費用もかかる。よって、代理店や販売店を活用しその販売ネットワークを拡大するのも一つの手段である。代理店・販売店を活用する場合には当然最終利益は低くなる一方で、販売ネットワークの拡大スピードや余分な投資を避けるという点では活用を検討する価値がある。
2. 合弁パートナーの有無
インドでのオペレーション経験がないからと言って、安直に合弁パートナーを求めるのは危険だ。合弁パートナーとの関係には強い交渉力といつでも提携を解消できるだけの決定的な御社の優位性が必要である。一般的に合弁パートナーの賞味期限は3年程度、それ以降は自社でもそれなりにインドでの事業運営ノウハウが蓄積され様々な現地での問題解決も自社で取り組めるようになる。
合弁パートナーが必要となるのは、競合関係にあり戦略的にビジネスを協調して進めて行く場合や、外国資本規制により外資の比率が定められている業種もしくは調達要件に定めがある場合などである。それ以外の合弁関係はインド企業側にしかメリットがないと言っても過言ではない。それでも合弁パートナーを起用する際には、可能な限りそのメリットを享受し合弁解消も最初から視野にいれつつ提携関係を模索することをお薦めする。
3. 競合の進出企業(インド地場企業、外国企業)
競合の進出状況は、大きく競争環境を決定する要因である。インド企業との競争になる場合、価格競争力は圧倒的に先方にありそれ以外の面での差別化が重要となるであろうし、外国企業との競争のみである場合、それらの企業のインド拠点の有無などを確認する必要がある。
韓国・中国メーカーなどの競合がいる場合には、自社の拠点展開が先行していても注意が必要である。迅速な意思決定と圧倒的な資本力で多少のシェアの差などはすぐに覆されてしまう。自社が独占して販売可能な商品以外には競合メーカーとのある程度の価格競争は避けられない。
4. 販売エリアの決定(ドミナント戦略 or 全国)
日本の国土の9倍近くあるインド市場を単一の市場、一つの販売エリアとして捉えることは難しい。都市、地方、州などにより大まかに属性の異なる人々が住んでおり、また都市の中でも細かく居住エリアが分かれている。人口100万人以上の都市も全国に50以上存在する。
インド市場に投入可能な資源が限られている場合には、一つの地域で集中的にブランド構築や販売ネットワークを広げ、確立できた後に対象エリアを拡大するドミナント戦略は一つ有効な手段である。全国へ販売エリアを展開する場合にも、まずは一部の都市や地域から開始するのが一般的である。南北でも人種の違いもあり大きく嗜好が異なる。販売後のサービス体制も考えると販売店や代理店ネットワークの活用は有効な手段の一つである。
5. 商品調達方法(国内調達、輸入、組立の有無)
商品の調達方法は、価格と供給の安定性の観点から検討が必要である。国内調達可能な材料や原料は、品質の面でクリアできれば検討するべきである。輸入する場合、輸入通関などがスムーズに行えない可能性などもあり、国内調達だとより安定的である。また、完成品を輸入している場合には、インド国内で原材料や部品を輸入し組み立てなどの付加価値を付けることにより販売可能な場合には検討するべきである。近年インド政府は様々な製品で国内製品の製造を推奨しており、完成品の関税率が引き上げられる傾向にある。直近の事例だと、液晶テレビやスマートフォン、タブレットなどは既にインド国内の組み立て製造に移管している。
6. 価格戦略
価格戦略はインド市場でのシェア獲得において最も重要な要素の一つである。インド人は初期コストに非常にうるさい。日本人はランニングコストを含めて、トータルコストで考えるが、インド人は極端な言い方をすると初期コストのみしか考えない。耐久性が高く故障が少なく長く使えるという価値はインド人にはあまり響かない。現地では冗談で、インド人は日本製品の品質を中国製品の価格で買いたいと言うことがありこれがインド人の本音である。
価格戦略次第では、マーケットシェア拡大に大きく寄与することができる。また、後から参入する競合の参入障壁にもなるため早期に参入し現地調達率を上げ価格競争力をつけるというのは有効な手段である。もちろん付加価値に対して対価を払うインド人や企業もいるがそこを中心に販売を行う場合、インド市場の規模のメリットはあまり享受できなくなる。
7. 現地人材の登用(競合企業での経験者など)
現地での経験年数が長い日本人でも、やはりインド市場で経験を積んだインド人にはかなわない。特に立ち上げを迅速にするのに寄与するのが同業他社や競合企業での経験を有する従業員である。情報の管理などには一定の注意を払う必要はあるが、業界の慣習や様々な取引に関する情報を素早く入手することが可能である。
日本語を話せる人材を採用するのもよいが、同じ給与レベルの場合日本語人材は割高になるし、能力が言語中心で業界に必要な専門知識を有していない場合もあるので注意が必要である。また、社内で日本語を多用すると情報の各差なども生じるので注意が必要となる。
8. アフターサービス体制
アフターサービス体制は、故障やトラブルの多いインドでは評価の一つとなる指標である。迅速に対応できるだけの十分な人員やネットワークを有しているかが評価される。自動車のマルチスズキの高いシェアを支える要因の一つは、インド全国に展開されるサービスネットワークと安価に入手可能なアフターサービスパーツである。自社で展開するのが難しい場合には、代理店や販売店のネットワークを活用しながら、高度な修理は自社の社員でまかなうことも可能である。
9. 製品開発体制
インド市場には、価格や製品特徴などやはりインド人向けに開発された商品が必要である。単に他国で販売されている商品を横展開しても、インド人消費者や企業の支持を得ることは難しい。的確にかれらのニーズを把握し製品開発に反映させることが可能な体制が必要である。自動車や二輪メーカー各社は既にインド国内で製品の開発からテストまで行える体制を整えつつあり、マルチスズキやホンダなどはインド人に合わせた製品開発を積極的に行い新製品を投入している。
10. 広告宣伝、マーケティング体制
広告宣伝やマーケティングには多くの手段が存在する。地理的な広がりをカバーできるのはインターネットやTVなどの媒体である。特に近年Eコマースの拡大スピードは非常に早く、 地方としなどもカバーすることが可能でありコストを抑えて販売網を構築することが可能である。広告宣伝やマーケティングはやはりインド人の嗜好に合わせて行うことが必要であり、表現の手法や起用する人物などもインド人の好みに合わせる必要がある。
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |