従来、インドでは外国為替管理法(Foreign Exchange Management Act - FEMA)の規制が強く、製造業以外の企業に関しては資金調達オプションが限定的でした。しかしながら、2019年1月16日付けのインド準備銀行(Reserve Bank of India - RBI)が発した通達により大幅に活用範囲が広がり、外国投資規制を受けていない全ての企業が対象となりました。
概要
ECB(External Commercial Borrowing)とは、適格借主であるインド居住者がインド非居住者である認定貸主から借り受ける商業ローンの総称です。当ローンは規制の対象であり最低平均償還期間、資金使途、上限金利等の要件を遵守しなければならなりません。現在は、外貨建てとルピー建ての2種のECBに大別されます。以下の要件を満たすことが可能な場合、自動承認となりすぐに借入手続きに入ることが可能です。一方で以下の要件から一部はずれた条件でも借入は可能ですが、その場合にはインド準備銀行の事前承認が必要となります。
外貨建てECB | インドルピー建てECB | |
借入可能通貨 |
インドルピー以外の外国為替(米ドル、日本円、ユーロ等) | インドルピー |
適格借主 |
全ての外国直接投資(Foreign Direct Investment)を受け入れ可能な事業体
<その他>
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認定貸主 |
FATF(金融活動作業部会)又はIOSCO(証券監督者国際機構)を順守する国の居住者であること。 |
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最低平均償還期間 |
最低平均償還期間(Minimum Average Maturity Period - MAMP)は3年。
但し、製造業は年間上限額5000万米ドルとしてMAMP1年のECBを組むことが可能。
また、ECBの使途が運転資金・一般事業・既存ルピー建て借入の返済が目的の場合、MAMPは5年となる。 |
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上限金利 |
ベンチマークレート+450 bps |
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資金使途 |
禁止されている資金使途(ネガティブリスト)を以下の通り列挙する。
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親子ローンを実行するための株主要件とは?
上述の通り、外国株主(Foreign Equity Holder)からの運転資金目的又は一般事業目的での調達は認められています。
ガイドライン上、外国株主としてみなされれるためには以下のいずれかの要件を満たしている必要があります。
- 直接保有の場合、当該借入企業の持ち分を最低25%以上保有している。
- 間接保有の場合、当該借入企業の持ち分を最低51%以上保有している。
- 共通の海外親会社を持っているグループ会社である。
親子ローン・対外商業借入実行までの流れ
上記条件に合致する内容で借入を行うという仮定のもとでの、一般的な借入実行までの流れは以下の通りです。
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借入条件の整理
まずは借入条件の整理を行う。借入期間、金額、利率等である。利率は、上限金利が設定されているのでその金利以下であればいずれの金利を設定しても問題ないが、移転価格の観点からも他拠点で同様の親子ローンを組んでいる場合には、その利率と同等の利率を設定したり、もしくは事前に移転価格のベンチマーキングを行い適正な利率を把握しておくことが重要である。 -
借入契約書(Loan agreement)の作成・締結
借入条件の整理が完了したら、その内容を契約書に落とし込む。特に最低平均償還期間などは既定の年数を上回っていないと、インド準備銀行から借入登録番号が取得できないため、提出先となる公認取引銀行(Authorized Dealer Bank - AD Bank)と相談・確認をしながら進めるとよい。契約書作成後は、当事者同士で署名を行い契約を締結する。 -
借入登録番号(Loan Registration Number)の取得
契約書作成後、Form-ECBと呼ばれる借入の申請書式を準備し、インド地場銀行又は邦銀のインド支店を通じてインド準備銀行に借入登録番号を申請する。Form-ECBは契約署名日より7日以内に提出しなければならないため、借入契約書の作成と並行して進めることを推奨する。Form-ECBは勅許会計士又は会社秘書役の証明が必要となる。Form-ECB提出後、1週間~10日程度でインド準備銀行より借入登録番号が付与される。尚、申請者の情報(企業名、借入金額、借入期間)はインド準備銀行ホームページにて公開されるので留意する必要がある。 -
借入の実行
借入登録番号取得後、借入資金の送金が可能となる。一般の銀行ルートを通じて送金を行う。 -
借入後のコンプライアンス
借入実行後、毎月翌月7日までにForm ECB-2と言われる書式で、インド準備銀行に対し借入資金の返済状況、残高の報告を行わなければならない。
インド非居住者に対する利子支払にかかる源泉徴収税率は?
対外商業借入(External Commercial Borrowing - ECB)等の外国親会社やインド非居住者からの借入に対する利子支払いの際には、インド所得税法第195条に規定される20%(別途、サーチャージ・目的税が課せられます。)の源泉徴収税率が適用されます。
一方で、外貨を積極的に獲得したい思惑のあるインド政府は、上記の利子支払いに対して一定の優遇措置を設けています。インド所得税法第194LC条において、以下に該当する非居住者に対する利子の支払いに関しては5%の軽減税率が適用されます。本税率は日印租税条約に規定される利子支払いに対する源泉徴収税率10%よりもさらに優遇された税率です。
- 外貨建て借入契約(Loan Agreement)
- 外貨建て長期社債(Long-term bond)
- 外貨建て長期インフラ債(Long-term infrastructure bond)
- インドルピー建て社債(Rupee denominated bond - RDB)
尚、本税率の適用期限は2023年7月1日迄となっています。また、上記のもののうちインド国際金融センター(International Financial Service Center - IFSC)の取引所に上場された長期社債・ルピー建て社債に対する利子支払については4%の税率が適用されます。
インドルピー建てECBの利子支払いにかかる税率は?
利子支払にかかる源泉徴収税については、上述の通り非居住者に対しては、インド所得税法第195条に基づき20%で源泉徴収(サーチャージ・目的税が加算)がされます。一方で、居住国とインド間で締結された租税条約に規定される税率が有利な場合、所定の書類(TRC等)を提出することによりその適用を受けることも可能です。
日印租税条約の利子にかかる限界税率は10%
星印租税条約の利子にかかる限界税率は10%(金融機関)又は15%(それ以外)
借入金額に上限はありますか?
自動承認ルートでの上限金額は一会計年度当たり7億5千万USDまでとなっています。また、直接外国株主による外貨建てECBに関しては、資本額の最大7倍が上限となっていますが新規に借入予定のECBも含めて総額5百万USDまでは債務比率の制限は課せられません。
インドのLLPでは親子ローン可能でしょうか?
インド準備銀行は、2019年1月26日に通達を発し対外商業借入(External Commercial Borrowing - ECB)規制を緩和しました。当通達では適格借主(Eligible Borrower)が、"All entities eligible to receive FDI"と規定され、LLPを含む全てのの外国投資可能な事業体が対象となりました。
※関連通達リンクはこちら
尚、LLPへの外国株主の出資規制は外国直接投資(Foreign Direct Investment)規制に準じます。
輸入決済代金の繰り延べについて(サプライヤーズ・クレジット)
インドへ輸入する物品にかかる海外サプライヤーに対する代金決済は、最大6ヵ月を超えない期間で繰り延べることが可能です。
また、カテゴリーⅠの公認取引銀行は、数量や品質、契約条件の不履行、財政難、輸入者が売主に対して訴訟を起こした場合などを理由とする輸入代金の決済遅延について、インボイス価格に関係なく一度に6ヶ月まで(最長3年まで)期間延長を認めることを検討可能です。
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |