インドの公認会計士は、勅許会計士(Chartered Accountant - CA)と呼ばれています。インド以外にも、オーストラリアやシンガポール等の歴史的に旧大英帝国の影響の強い国では、同様にCAと称されています。インド勅許会計士は、企業省(Ministry of Corporate Affairs - MCA)傘下にあるインド勅許会計士協会(The Institute of Chartered Accountants of India - ICAI)に所属しており、様々な証明業務に従事しています。インドでは日本のような会計士と税理士の区分はなく、会計士の資格取得後それぞれの興味・関心・得意分野に基づき、会計・税務・監査などの業務の専門性を構築していく。特に税務においては、インド国内の税務なのか国際税務なのか、直接税なのか間接税なのかにより専門性が細分化されており自社の業務ニーズに応じて雇用したり、外部の専門家として知見を活用する必要があります。
インド会計士が行う各種業務
インド勅許会計士の資格が必要とされる証明業務の種類は多く、外国送金の際に必要とされるForm 15CBから移転価格に関連した証明書(Form 3CEB)、法定監査などがあります。法定監査(Statutory Audit)は、すべての会社(外国会社であるプロジェクト事務所、支店および駐在員事務所を含む)に、インド勅許会計士よる財務会計を受けることが義務づけられている。日本では、大会社(資本金計上額が5億円以上、もしくは、負債計上額200億円以上(会社法328条 1項、2項))、監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社(会社法327条5項)、会計監査人の任意設置を行った会社(会社法326条2項)のみが会計監査人監査の対象とされているが、インドにおいてはその規模を問わず財務監査が法定で義務付けられており非常に厳しい基準となっており、中小企業には重荷になっています。
資格試験の内容
インド勅許会計士の資格取得には、3段階の試験と3年間の実務経験が義務付けられており、おおむね他国の会計士制度と同等のレベルであり資格保有者に関してはある程度の知識と経験が担保されているということができます。インドにおいては難関資格の一つとして認知されており、資格保有者は一定の社会ステータスとして認識されています。
試験制度
レベル1(Common Proficiency Test - CPT)
いわゆる入門テストとして、全てのインド勅許会計士資格を取得するものが合格しなければならない試験です。ただし、特に資格として通用するわけではなくあくまでもレベル2の受験資格を取得するための試験です。
Paper 1 | Fundamentals of Accounting | 会計基礎 |
Paper 2 | Quantitative aptitude | 数量的適性 |
Paper 3A | Mercantile Law | 商事法 |
Paper 3B | General Economics | 経済概論 |
Paper 4 | General English | 英語概論 |
Paper 4B | Business Communications and ethics | ビジネスコミュニケーション及び倫理 |
レベル2(Integrated Professional Competence Course - IPC)
IPCのグループ1及び2の試験に合格すると通称”CA Inter”と呼ばれ、会計士まではいかないものの会計士資格取得に必要な一部の試験に合格していることが証明されます。また、IPCのグループのいずれかを合格すると実務経験を積むための”Articleship”に参加できるようになります。通常はArticleとして実務経験を積みながら試験合格を目指していきます。
GroupⅠ:
Paper 1 | Accounting | 会計 |
Paper 2 | Business Laws, Ethics and Communication | ビジネス法、倫理及びコミュニケーション |
Paper 3 | Cost Accounting and Financial Management | 原価会計及び財務マネージメント |
Paper 4 | Taxation | 税制 |
GroupⅡ:
Paper 5 | Advanced Accounting | 会計上級 |
Paper 6 | Auditing and Assurance | 監査及びアシュアランス |
Paper 7 | Information Technology and Strategic Management | IT及び経営戦略 |
レベル3(CA Final Examination - Final)
インド勅許会計士資格取得に必要な最終試験。合格者はCAと呼ばれ、レベル2のCA Interと区別されます。
GroupⅠ:
Paper 1 | Financial Reporting | 財務報告 |
Paper 2 | Strategic Financial Management | 戦略的財務経営 |
Paper 3 | Advanced Auditing and Professional Ethics | 監査と職業倫理上級 |
Paper 4 | Corporate and Allied Laws | 会社法並びに関連法 |
GroupⅡ:
Paper 5 | Advanced Management Accounting | 管理会計上級 |
Paper 6 | Information Systems Control and Audit | 情報システム管理及び監査 |
Paper 7 | Direct Tax Laws | 直接税法 |
Paper 8 | Indirect Tax Laws | 間接税法 |
インドの会計事務所でのキャリア
日本の会計士を目指す人の多くが、会計士試験合格後大手監査法人に入所するのと比較した場合、インドの会計士試験合格者は全てが大手監査法人へ就職する訳ではありません。
インドでは全ての法人に監査が義務づけられていたり、多くの会計士のみに可能な証明業務があることからインド全土に中小・零細会計事務所が無数に存在しています。そのような会計事務所・コンサルティングファームに就職する会計士もいますし、企業の経理・財務担当者として就業することもあります。
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |