インドでは、個人は3種類の居住ステータス(非居住者・通常の居住者・非通常の居住者)に分類されます。分類されたステータスに応じて個人は課税年度中(4月~翌年3月)の所得に対して課税されます。居住ステータスはインドへの滞在日数によって決定されるため、実際にインドに住居を構えているかどうかどうかに依らず決定されるので注意が必要です。つまり、出張ベースであっても規定の滞在日数を超えた場合、インド居住者として扱われます。
インドの個人所得税における居住ステータス
インドでは非居住者に加えて居住者が2種類(通常の居住者・非通常の居住者)に区分され合計3種類の居住ステータスが存在しています。
- 非居住者(Non Resident - NR)
- 非通常の居住者(Resident but Not Ordinary Resident - RNOR)
- 通常の居住者(Resident Ordinary Resident - ROR)
まず、以下の居住者・非居住者のステータス判定を行います。
<居住・非居住判定>
以下の判定に該当する者がインド居住者になります。また、該当しない者は非居住者(Non Resident - NR)となります(インド所得税法第6条(1)項)。
- 課税年度に182日以上インドに滞在、または
- 課税年度に60日以上インドに滞在、かつ4年の間に通算365日以上インドに滞在している場合
※2020年度よりインド国内所得が150万ルピーを超えるインド人の場合には、60日の代わりに120日が適用されます。
※インドの税務年度は、4月1日から翌年3月31日の期間で算定されます。
<居住者の通常・非通常の判定>
次に、以下の判定を行い該当する場合は、通常の居住者(Resident Ordinary Resident)となります。
- 過去10課税年度のうち少なくとも2課税年度において居住者である場合、かつ
- 過去7課税年度中730日以上インドに滞在している場合
インドの個人所得税の課税範囲
上述で決定された居住ステータスに基づくインド個人所得税の課税範囲は以下の通りです:
居住ステータス | |||
所得の性質 | 非居住者(NR) | 非通常の居住者(RNOR) | 通常の居住者(ROR) |
インド国内で発生した所得 | 課税 |
課税 |
課税 |
インド国内で発生したとみなされる所得 | 課税 | 課税 | 課税 |
インド国内で受領した所得 | 課税 | 課税 | 課税 |
インド国内で受領されるであろう所得 | 課税 | 課税 | 課税 |
インド国内でコントロールされた事業にかかる、インド国外で発生・受領した所得 | 非課税 | 課税 | 課税 |
上記以外の全ての所得 | 非課税 | 非課税 | 課税 |
インドの個人所得税率
納税者は新/旧税率のいずれかの自身に有利な税率を選択することが可能です。
【新税率】 インド所得税法で定められた所得控除等を利用しない代わりに以下の新税率(インド所得税法第115BAC条)を適用することが可能です。
2024年度以降(インド所得税法115BAC条1A項ii号)
課税所得金額の区分 | 2024年度に適用可能な新税率 |
300,000ルピー以下 | 0% |
300,000ルピー超700,000ルピー以下 | 5% |
700,000ルピー超1,000,000ルピー以下 | 10% |
1,000,000ルピー超1,200,000ルピー以下 | 15% |
1,200,000ルピー超1,500,000ルピー以下 | 20% |
1,500,000ルピー超 | 30% |
給与所得者は75,000ルピーの基礎控除が利用することができます(インド所得税法16条1項ia号、115BAC条1A項ii号)。
2023年度(インド所得税法115BAC条1A項i号)
課税所得金額の区分 | 2023年度に適用可能な新税率 |
300,000ルピー以下 | 0% |
300,000ルピー超600,000ルピー以下 | 5% |
600,000ルピー超900,000ルピー以下 | 10% |
900,000ルピー超1,200,000ルピー以下 | 15% |
1,200,000ルピー超1,500,000ルピー以下 | 20% |
1,500,000ルピー超 | 30% |
給与所得者は50,000ルピーの基礎控除が利用することができます(インド所得税法16条1項ia号、115BAC条1A項i号)。
2020年度から2022年度まで(インド所得税法115BAC条1項)
課税所得金額の区分 | 2022年度まで適用可能な新税率 |
250,000ルピー以下 | 0% |
250,000ルピー超500,000ルピー以下 | 5% |
500,000ルピー超750,000ルピー以下 | 10% |
750,000ルピー超1,000,000ルピー以下 | 15% |
1,000,000ルピー超1,250,000ルピー以下 | 20% |
1,250,000ルピー超1,500,000ルピー以下 | 25% |
1,500,000ルピー超 | 30% |
【旧税率】 インドの個人所得税の旧税率は以下の表の通りです。旧税率を選択する納税者には、新税率では利用できない様々な税額控除等を利用できるというメリットがあります。
課税所得金額の区分 | 従来の税率 |
250,000ルピー以下 | 0% |
250,000ルピー超500,000ルピー以下 | 5% |
500,000ルピー超1,000,000ルピー以下 | 20% |
1,000,000ルピー超 | 30% |
【加算税及び健康教育目的税】 上記の個人所得税に加え、4%の健康教育目的税(Health and Education Cess)及び以下の表の通り加算税(Surcharge)が所得金額に応じて個人所得税額に対して付加されます。
新税率の場合の加算税(2023年度以降)
500万ルピー超1千万ルピー以下 | 1千万ルピー超2千万ルピー以下 | 2千万ルピー超 |
10% | 15% | 25% |
旧税率の場合の加算税(2023年度以降)
500万ルピー超1千万ルピー以下 | 1千万ルピー超2千万ルピー以下 | 2千万ルピー超5千万ルピー以下 | 5千万ルピー超 |
10% | 15% | 25% | 37% |
インドの個人所得税の申告方法
課税所得金額が非課税枠を超える全ての個人は、個人所得税申告書(Income Tax Return)の提出が義務付けられています。日本と異なり、源泉徴収により納税手続きが完了している場合であっても、課税所得金額が非課税枠を超えている場合には提出義務があることに注意が必要です。
非課税枠とは下記の通りです。
- 60歳以下の個人:25万ルピー/30万ルピー
- 60歳超80歳以下の個人:30万ルピー
- 80歳超の個人:50万ルピー
申告書はインド所得税局のオンラインポータルサイトを通じて提出します。申告書提出後は"ITR-V"という申告完了通知書が発行されます。完了通知書については、認証作業が必要です。認証方法については以下の3通りの方法があります。
<認証方法>
- 印刷・署名した後に、バンガロールにあるインド所得税局の中央処理センター宛てに120日以内に郵送
- アダールを活用したOTP認証
- 電子署名(DSC)を活用した電子認証
- 一部の銀行のネットバンキングを活用したOTP認証
<インドの個人所得税申告書の提出期限>
課税年度の翌年7月31日
課税所得額が25万ルピー等を超えない場合でも、以下のいずれかに該当する場合については個人所得税申告書の提出が例外的に義務付けられています。
<個人所得税申告書の提出が必要となる例外>
- 当座預金残高が1000万ルピーを超えている場合
- 課税年度での電気代への支出が10万ルピー以上ある場合
- 課税年度での海外(インド国外)旅行への支出が20万ルピー以上ある場合
※対象者は上述の詳細についても申告書上で開示する必要があります。
なお、所得税申告義務があるにもかかわらず、申告を行わなかった場合のペナルティ等はこちらをご参照ください。
給与にかかる源泉所得税
企業が給与・賞与等の支払を行なう際には、源泉徴収が義務付けられています。源泉徴収された個人所得税は企業が源泉徴収した翌月の7日までに納付します。源泉徴収された金額の明細は、企業が四半期毎に申告を行い、申告された内容は納税者側でForm26ASという様式で確認が可能です。また、企業は年に一度Form16と呼ばれる様式で源泉徴収の証明書を源泉徴収を行った内容の証明書を納税者に対して発行する必要があります。
給与以外の所得にかかるインドの個人所得税
源泉徴収の対象となっていない給与以外の所得(利息、株式の売買益、留守宅の賃料収入等)については、別途自己申告(Self Assessment Tax)にて納税する必要があります。Self Assessment Tax はインド地場系の銀行などを通じて納付することが可能です。納付に関しては課税年度の見積もり税額を基準とし以下の割合で納付する必要があります。
<予定納税の納付期限>
納付期限 |
納付しなければならない割合 |
6月15日 |
見積もり税額の15% |
9月15日 |
見積もり税額の45% |
12月15日 |
見積もり税額の75% |
翌3月15日 |
見積もり税額の100% |
※予定納税額が確定した税額の90%に満たない場合には、納付の延滞利息を納める必要があります。
短期滞在者にかかるインドの個人所得税の免税
一定の要件を満たす場合、インド国内で発生・受領した所得であっても免税となることが日印租税条約にて規定されています。その場合、日本からの出張者等でインドでの業務に関する報酬(インド源泉所得)がある場合であってもインドでの納税義務が発生しません。
- 滞在日数基準:当該課税年度又は前年度を通じて合計183日を超えてインドに滞在しないこと
- 支払地基準:報酬が日本の雇用者から支払われること
- PE負担基準:報酬がインド国内に有する恒久的施設によって負担されないこと
従ってインドでの滞在日数が183日を超過するなど、短期滞在者免税の基準を満たさない場合日本のみならずインドでも納税が必要になります。
特定の個人の場合の個人所得税の控除(所得税法第87A条)
インド所得税法第87A条では、居住ステータスが居住者であり、課税所得が50万ルピーを超えない個人は当該個人所得税から全額の個人所得税または12,500ルピーのいずれか低い金額を控除することが可能です。
つまり、居住者であり課税所得が50万ルピーを超えない個人には実質個人所得税はかかりません。更に、2023年度の予算案(2023年4月1日からの税務年度に適用)にて新税制(インド所得税法第115BAC条)を適用する納税者に関しては、その課税所得金額の上限を50万ルピーから70万ルピーへ引き上げ、控除の上限金額も25,000ルピーとすることが発表されました。
ただし、課税所得が25万ルピーを超える場合には個人所得税の申告は必要となるため注意が必要です。
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |