所得税に関する税務調査の結果、税務当局の担当官が納税者に所得税の未払い額等があると判断した場合には、更正処分通知(Order of Assessment)が納税者に発行されます。更正処分通知(Order of Assessment)の内容に不服がある場合には、納税者は不服申立さらにその後の税務訴訟の場で、不服な更正処分について解決していくことになります。
不服申立て及び税務訴訟の流れ
1961年インド所得税法は下記の通り段階的な不服申立及び税務訴訟手続きを用意しておりますが、最初から裁判所に審理を求めることは出来ません。納税者はまず所得税コミッショナー(Commissioner of Income Tax(Appeals) - CIT(A))又は紛争解決機構(Dispute Resolution Panel - DRP)のいずれかに不服申立てを行います。次に税務審判所(Income Tax Appellate Tribunal – ITAT)、高等裁判所(High Court)そして最高裁判所(Supreme Court)へと進んできます。インドの司法制度は健全に機能していると言われている一方で、非常に時間がかかるという課題もあります。
| 名称 | 参照条文 | |
| コミッショナーアピール等 | 所得税コミッショナー(Commissioner of Income Tax(Appeals) - CIT(A)) 又は 紛争解決機構(Dispute Resolution Panel - DRP) | 1961年インド所得税法第246条、第144C条等 |
| 不服申立 | 税務審判所(Income Tax Appellate Tribunal – ITAT) | 同法第252条等 |
| 取消訴訟 | 高等裁判所(High Court) | 同法第260A条、第260B条 |
| 取消訴訟 | 最高裁判所(Supreme Court) | 同法第261条 |
コミッショナーアピール:所得税コミッショナー又はDRP
更正処分通知に不服がある納税者は所得税コミッショナーに不服申し立てする場合は更正処分通知の最終版であるFinal Orderから30日以内、又DRPに不服申し立てする場合は更正処分通知のドラフト版であるDraft Orderから30日以内に不服申立ての申請を行います(1961年インド所得税法第144C条、246条、249条)。納税者は所得税コミッショナーに申請を行う際にはForm No.35と呼ばれる様式で申請を行いますが、下記の申請料を支払う必要があります(1961年インド所得税法第249条1項、1962年インド所得税法細則第45条)。
| 税務調査官の計算した所得額 | 申請料 |
| 10万ルピー以下 | 250ルピー |
| 10万ルピー~20万ルピー以下 | 500ルピー |
| 20万ルピー~ | 1,000ルピー |
| その他の場合 | 250ルピー |
また、納税者は更正処分通知(Order of Assessment)を受けている税額の20%を預託金として支払うことで、税務調査担当官は担当官自身の裁量にて、争いのある金額について納税者を不納付(Default)とみなさずに、所得税コミッショナーアピールの決定までの間の徴収停止命令(Stay of Demand)を出すことができます(1961年インド所得税法第220条6項、F.No. 404/72/93-ITCC)。徴収停止命令とは、 税務当局による未納税額の強制徴収を一時的に止める命令のことです。実務上、この預託金は税務調査担当官の裁量で課されないことや、20%の預託金の分割払いが認められることもあります。
所得税コミッショナーアピールでは、ジョイントコミッショナー/コミッショナーによって、納税者及び税務調査担当官に対して事情聴取の機会が与えれます。必要に応じて、ジョイントコミッショナー/コミッショナーは追加の質問をすることもできます(1961年インド所得税法第250条6項)。可能な限り、所得税コミッショナーアピールの決定は、不服申し立てが行われた会計年度末から1年以内に行われますが、実務上は3~4年ほどかかることも稀ではありません。所得税コミッショナーアピールの決定では、ジョイントコミッショナー/コミッショナーは税務調査での更正処分通知(Order of Assessment)を承認、減額、増額及び取り消すことができます(1961年インド所得税法第251条1項a号,1A項a号)。
また、紛争解決機構(Dispute Resolution Panel - DRP)は税務調査段階での税務紛争の早期解決を目的に2009年に導入された機構です。移転価格に関する税務紛争やインド外国会社に関する税務紛争に関して審議が可能であり、Draft Orderが発行された月末から9か月以内に税務調査担当官に当該税務調査に関する指示(Direction)が下される特徴があります。DRPから税務調査担当官が指示(Direction)を受領した月末から1か月以内に、税務調査担当官は当該税務調査を完了させる必要があります(1961年インド所得税法第144C条13項)。
実務上はDRPでは納税者有利の決定がされる可能性は極めて低いと言われており、税務審判所(Income Tax Appellate Tribunal – ITAT)へいち早く上訴するためのファストトラックルートとして利用されるケースが一般的です。
| 所得税コミッショナー(CIT(A)) | 紛争解決機構(DRP) | |
| 対象案件 | すべての税務訴訟案件 | 国際税務、移転価格税制に関連する税務紛争案件 |
| 審査期限 | なし(実務上は3 - 4年) | Draft Orderを受領した月末から9か月以内 |
| 預託金の支払 | 必要 | 不要 |
| 上訴 | 納税者、税務当局ともにITATに上訴できる | 以前までは納税者のみITATに上訴できたが、2023年以降は納税者及び税務当局ともにITATに上訴できる |
不服申立:税務審判所(Income Tax Appellate Tribunal – ITAT)
コミッショナーアピールでの決定に不服の場合は法務省の管轄である税務審判所(ITAT)に上訴することが可能です(1961年インド所得税法第253条)。ITATは準司法機関と言えます。ITATへの不服申立はコミッショナーアピールの決定が出てから2か月以内に下記の申請料を払った上でForm No.36と呼ばれる様式で申請を行う必要があります(1961年インド所得税法第253第条3,6項、1962年インド所得税法細則第47条1項)。
| 税務調査官の計算した所得額 | 申請料 |
| 10万ルピー以下 | 500ルピー |
| 10万ルピー~20万ルピー以下 | 1,500ルピー |
| 20万ルピー~ | 係争中の所得額の1%(1万ルピーが上限) |
| その他の場合 | 500ルピー |
また、ITATに不服申立された被告側は、その知らせから30日以内に反対意見の覚書(Memorandum of Cross-objections)をForm No.36Aと呼ばれる様式で提出することができます(1961年インド所得税法第253条4項、1962年インド所得税法細則第47条2項)。
なお、納税者が更正処分通知(Order of Assessment)を受けている税額等の少なくとも20%を預託金として支払うことを条件に、ITATは徴収停止命令(Stay of Demand)を出すことができます。徴収停止命令とは、 税務当局による未納税額の強制徴収を一時的に止める命令のことです。徴収停止命令の有効期限は180日までであり、延長された場合でも最大365日までであり、ITATはこの期限までに決定を行うことになりますが、この期限までに決定が行われなかった場合には、有効期限以降の徴収停止命令は無効となります(1961年インド所得税法第254条2A項但し書き)。
ITATの不服申立は、可能な限り不服申立が申請された年度の最終日から4年以内に事情聴取の上、決定をおこなうことになります(1961年インド所得税法第254条2A項)。
取消訴訟
取消訴訟は高等裁判所(High Court)に提起します。事実認定を争うことができるITATへの不服申立までとは異なり、高等裁判所への取消訴訟の場では税法上の重要な解釈の問題(a Substantial Question of Law)が審査されます。よって、税法上の解釈の問題(Question of Law)が無いケースでは取消訴訟を提起することはできません。ITATの決定に不服の場合は、ITATの判決から120日以内に取消訴訟を提起する必要があります(1961年インド所得税法第260A第条2項)。
そして、高等裁判所の判決にも不服がある場合には、インド税法上における最終の決定機関である最高裁判所(Supreme Court)へ上告することになります(1961年インド所得税法第261条)。最高裁判所(Supreme Court)までいくと、約80%の確率で納税者に有利な判決が出ると言われております。
控訴可能な係争金額の金額制限
インドの司法は数多くの訴訟案件を抱えており、常にパンク状態にあると言われております。そこで司法資源の活用を最適化し係争の解決を迅速化するため、2024年度財政案では控訴等が可能な係争金額の下限は下記の通り提案されています。
| 係争金額の下限 | |
| 税務審判所(Income Tax Appellate Tribunal – ITAT) | 600万ルピー |
| 高等裁判所(High Court) | 2,000万ルピー |
| 最高裁判所(Supreme Court) | 5,000万ルピー |
執筆・監修
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鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
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新井 辰和 | Tatsuo Arai |


