所得税に関する税務調査の結果、税務当局の担当官が納税者に所得税の未払い額等があると判断した場合には、更正処分通知が納税者に発行されます。更正処分通知の内容に不服がある場合には、納税者は不服申立さらにその後の税務訴訟の場で、不服な更正処分について解決していくことになります。
不服申立て及び税務訴訟の流れ
インド所得税法は下記の通り段階的な不服申立及び税務訴訟手続きを用意しておりますが、最初から裁判所に審理を求めることは出来ません。納税者はまず所得税コミッショナー(Commissioner of Income Tax(Appeals) - CIT(A))又は紛争解決機構(Dispute Resolution Panel - DRP)のいずれかに不服申立てを行います。次に税務審判所(Income Tax Appellate Tribunal – ITAT)、高等裁判所(High Court)そして最高裁判所(Supreme Court)へと進んできます。インドの司法制度は健全に機能していると言われている一方で、非常に時間がかかるという課題もあります。
名称 | 参照条文 | |
コミッショナーアピール等 |
所得税コミッショナー(Commissioner of Income Tax(Appeals) - CIT(A)) 又は 紛争解決機構(Dispute Resolution Panel - DRP) |
所得税法第246条等 |
不服申立 | 税務審判所(Income Tax Appellate Tribunal – ITAT) | 同法第252条等 |
取消訴訟 | 高等裁判所(High Court) | 同法第256条等 |
取消訴訟 | 最高裁判所(Supreme Court) | 同法第257条等 |
コミッショナーアピール:所得税コミッショナー又はDRP
更正処分通知に不服がある納税者は所得税コミッショナー又はDRPのいずれかに30日以内に不服申立ての申請を行います(所得税法第246条、249条)。納税者は所得税コミッショナーに申請を行う際にはForm No.35と呼ばれる様式で申請を行いますが、下記の申請料を支払う必要があります(同法第249条1項、所得税法細則第45条)。
税務調査官の計算した所得額 | 申請料 |
10万ルピー以下 | 250ルピー |
10万ルピー~20万ルピー以下 | 500ルピー |
20万ルピー~ | 1,000ルピー |
その他の場合 | 250ルピー |
また、通常の場合は手数料に加えて更生通知を受けている税額の20%を預託金としても支払うことが求められます(所得税法第220条6項、F.No. 404/72/93-ITCC)。ただこの預託金は税務調査担当官の裁量で課されないことも、20%以上で課されることもありえます。
また、DRPは所得税コミッショナー段階での裁判の迅速化を目的に2009年に導入された機構です。主に内国法人の移転価格及び外国法人の税務訴訟の全般に関して審議が可能であり、更正処分通知を受領した月末から9か月以内に判決が下される特徴があります。
所得税コミッショナー(CIT(A)) | 紛争解決機構(DRP) | |
対象案件 | すべての税務訴訟案件 | 国際税務に関連する税務訴訟案件 |
審査期限 |
なし(実務上は約2年) |
更正処分通知を受領した月末から9か月以内 |
税金の預託 | 必要 | 不要 |
不服申立:税務審判所(Income Tax Appellate Tribunal – ITAT)
コミッショナーアピールでの決定に不服の場合は法務省の管轄である税務審判所(ITAT)に上訴することが可能です(所得税法第253条)。ITATは準司法機関と言えます。ITATへの不服申立はコミッショナーアピールの決定が出てから60日以内に下記の申請料を払った上でForm No.36と呼ばれる様式で申請を行う必要があります(所得税法第253第条3,6項、所得税法細則第47条1項)。
税務調査官の計算した所得額 | 申請料 |
10万ルピー以下 | 500ルピー |
10万ルピー~20万ルピー以下 | 1,500ルピー |
20万ルピー~ | 係争中の所得額の1%(1万ルピーが上限) |
その他の場合 | 500ルピー |
なお、上記の手数料に加えて更生通知を受けている税額の20%以上を預託金としても支払うことが求められます(所得税法第254条2A項)。また、ITATに不服申立された被告側は、その知らせから30日以内に反対意見の覚書(Memorandum of Cross-objections)をForm No.36Aと呼ばれる様式で提出することができます(所得税法第253条4項、所得税法細則第47条2項)。
取消訴訟
取消訴訟は高等裁判所(High Court)に提起します。事実認定を争うことができるITATへの不服申立までとは異なり、高等裁判所への取消訴訟の場では税法上の解釈の問題(Question of Law)が審査されます。よって、税法上の解釈の問題(Question of Law)が無いケースでは取消訴訟を提起することはできません。ITATの決定に不服の場合は、ITATの判決から60日以内に200ルピーの申請料を払った上で取消訴訟を提起する必要があります(所得税法第256第条1項)。
そして、高等裁判所の判決にも不服がある場合には、インド税法上における最終の決定機関である最高裁判所(Supreme Court)へ上告することになります(所得税法第257条)。最高裁判所(Supreme Court)までいくと、約80%の確率で納税者に有利な判決が出ると言われております。
控訴可能な係争金額の金額制限
インドの司法は数多くの訴訟案件を抱えており、常にパンク状態にあると言われております。そこで司法資源の活用を最適化し係争の解決を迅速化するため、2024年度財政案では控訴等が可能な係争金額の下限は下記の通り提案されています。
係争金額の下限 | |
税務審判所(Income Tax Appellate Tribunal – ITAT) | 600万ルピー |
高等裁判所(High Court) | 2,000万ルピー |
最高裁判所(Supreme Court) | 5,000万ルピー |
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |