所得税の税務調査の結果、税務当局の税務調査官が納税者に所得税の未納税額等があると判断した場合には、更正処分通知(Order of Assessment)が納税者に発行されます。更正処分通知の内容に不服がある場合には、納税者は不服申立てさらにその後の税務訴訟の場で、不服な更正処分について解決していくことになります。
不服申立て及び税務訴訟の流れ
下記の通り、インド所得税法は段階的な不服申立て及び税務訴訟手続きを用意しておりますが、最初から裁判所に審理を求めることは出来ません。まず、納税者は所得税コミッショナー又は紛争解決機構のいずれかに不服申立てを行います。次に、税務審判所、高等裁判所そして最高裁判所へと進んできます。インドの司法制度は健全に機能していると言われている一方で、非常に時間がかかるという課題もあります。
| 名称 | |
| コミッショナーアピール等(不服申立て) |
所得税ジョイントコミッショナーアピール(Commissioner of Income Tax(Appeals) - CIT(A)) / 所得税コミッショナーアピール(Commissioner of Income Tax(Appeals) - CIT(A)) 又は 紛争解決機構(Dispute Resolution Panel - DRP) |
| 不服申立て | 税務審判所(Income Tax Appellate Tribunal – ITAT) |
| 取消訴訟 | 高等裁判所(High Court) |
| 取消訴訟 | 最高裁判所(Supreme Court) |
コミッショナーアピール(不服申立て):所得税コミッショナーアピール又はDRP
更正処分通知に不服がある納税者は、ジョイントコミッショナー、コミッショナーに不服申立てする場合は更正処分通知の最終版であるFinal Orderから30日以内、又DRPに不服申立てする場合は更正処分通知のドラフト版であるDraft Orderから30日以内に不服申立ての申請を行います(1961年インド所得税法第144C条、246条、246A条、249条)(2025年所得税法第275条、356条、357条、358条)。
所得税コミッショナーアピール
納税者は所得税コミッショナーに申請を行う際にはForm No.35と呼ばれる様式で申請を行い、下記の申請料がかかります(1961年インド所得税法第249条1項、1962年インド所得税法細則第45条)(2025年所得税法第358条2項)。
| 税務調査官の計算した課税所得(不服に関する金額) | 申請料 |
| 10万ルピー以下 | 250ルピー |
| 10万ルピー超~20万ルピー以下 | 500ルピー |
| 20万ルピー超~ | 1,000ルピー |
| その他の場合 | 250ルピー |
また、納税者は争っている税額の20%を預託金として支払うことで、税務調査官は自らの裁量にて、滞納税額(争っている税額)について納税者を不納付(Default)とみなさずに、コミッショナーアピールの決定までの間の徴収停止命令(Stay of Demand)を出すことができます(1961年インド所得税法第220条6項、F.No. 404/72/93-ITCC)(2025年インド所得税法第411条12項)。徴収停止命令とは、 税務当局による滞納税額の強制徴収を一時的に止める命令のことです。実務上、この預託金は税務調査官の裁量で課されないことや、20%の預託金の分割払いが認められることもあります。
所得税コミッショナーアピールでは、ジョイントコミッショナー/コミッショナーによって、納税者及び税務調査官に対して事情聴取の機会が与えられます。必要に応じて、ジョイントコミッショナー/コミッショナーは追加の質問をすることもできます(1961年インド所得税法第250条4項)(2025年インド所得税法第359条3項)。可能な限り、所得税コミッショナーアピールの決定は、不服申立てが行われた会計年度末から1年以内に出されるよう規定されていますが、実務上は2~3年ほどかかることも稀ではありません。なお、所得税コミッショナーアピールの決定では、ジョイントコミッショナー/コミッショナーは税務調査での更正処分通知を確定、減額、増額及び取り消すことができます(1961年インド所得税法第251条1項a号,1A項a号)(2025年インド所得税法第360条1項a号)。
紛争解決機構(Dispute Resolution Panel - DRP)
DRPは税務調査段階での税務紛争の早期解決を目的に2009年に導入された機構です。移転価格に関する税務紛争やインド外国会社に関する税務紛争に関して審議が可能であり、Draft Orderが発行された月末から9か月以内に税務調査担当官に当該税務調査に関する指示(Direction)が下される特徴があります。DRPから税務調査官が指示を受領した月末から1か月以内に、税務調査担当官は当該税務調査を完了させる必要があります(1961年インド所得税法第144C条13項)(2025年インド所得税法第275条14項)。
実務上はDRPでは納税者有利の決定がされる可能性は極めて低いと言われており、税務審判所へいち早く上訴するためのファストトラックルートとして利用されるケースが一般的です。DRPの詳細はこちらにてまとめています。
| 所得税コミッショナーアピール | DRP | |
| 対象案件 | すべての税務訴訟案件 | 国際税務、移転価格税制に関連する税務紛争案件 |
| 審査期限 | なし(実務上は2~3年) | Draft Orderを受領した月末から9か月以内 |
| 預託金の支払 | 必要 | 不要 |
| 上訴 | 納税者、税務当局ともにITATに上訴できる | 以前までは納税者のみITATに上訴できたが、2023年以降は納税者及び税務当局ともにITATに上訴できる |
不服申立て:税務審判所(Income Tax Appellate Tribunal – ITAT)
コミッショナーアピールでの決定に不服の場合には、法務省の管轄である税務審判所に上訴することが可能です(1961年インド所得税法第253条)(2025年インド所得税法第362条)。ITATは準司法機関と言えます。ITATへの不服申立てはコミッショナーアピールの決定(Order)が出てから2か月以内に下記の申請料を払った上でForm No.36と呼ばれる様式で申請を行う必要があります(1961年インド所得税法第253条3,6項、1962年インド所得税法細則第47条1項)(2025年インド所得税法第362条3,6項)。
| 税務調査官の計算した課税所得(不服に関する金額) | 申請料 |
| 10万ルピー以下 | 500ルピー |
| 10万ルピー超~20万ルピー以下 | 1,500ルピー |
| 20万ルピー超~ | 係争中の所得額の1%(1万ルピーが上限) |
| その他の場合 | 500ルピー |
また、ITATに不服申立てされた被告側は、その知らせから30日以内に反対意見の覚書(Memorandum of Cross-objections)をForm No.36Aと呼ばれる様式で提出することができます(1961年インド所得税法第253条4項、1962年インド所得税法細則第47条2項)(2025年インド所得税法第362条4項)。
なお、納税者が更正処分通知を受けている税額等の少なくとも20%相当額の支払又は同額の担保提供を条件として、ITATは徴収停止命令を出すことができます。徴収停止命令の有効期限は180日までであり、延長された場合でも最大365日までであり、ITATはこの期限までに決定を行うことになります。この期限までに決定が行われなかった場合には、原則として有効期限以降の徴収停止命令は無効となります(1961年インド所得税法第254条2A項但し書き)(2025年インド所得税法第363条6,7,8項)。
可能な限り、ITATの決定は、不服申立てが行われた会計年度末から4年以内に出されるよう規定されています(1961年インド所得税法第254条2A項)(2025年インド所得税法第363条5項)。
取消訴訟
取消訴訟は高等裁判所に提起します。事実認定を争うことができるのはITATへの不服申立てまでであり、高等裁判所への取消訴訟の場では税法上の重要な解釈の問題(a Substantial Question of Law)が審査されます。よって、税法上の解釈の問題が無いケースでは取消訴訟を提起することはできません。ITATの決定に不服の場合は、ITATの判決から120日以内に取消訴訟を提起する必要があります(1961年インド所得税法第260A第条1,2項)(2025年インド所得税法第365条1,2項)。
そして、高等裁判所の判決にも不服がある場合には、インド税法上における最終の決定機関である最高裁判所へ上告することになります(1961年インド所得税法第261条)(2025年インド所得税法第367条)。
控訴可能な係争金額の金額制限
インドの司法は数多くの訴訟案件を抱えており、常にパンク状態にあると言われております。そこで司法資源の活用を最適化し係争の解決を迅速化するため、所得税当局による控訴が可能な係争金額の下限を下記の通り設定されています(1961年インド所得税法第268A条、CBDT Circular No. 5/2024、No. 09/2024)(2025年インド所得税法第373条)。
| 係争金額の下限 | |
| 税務審判所 | 600万ルピー |
| 高等裁判所 | 2,000万ルピー |
| 最高裁判所 | 5,000万ルピー |
執筆・監修
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鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
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新井 辰和 | Tatsuo Arai |


