A国に展開する企業がB国のグループ会社(国外関連者)と取引をする際に、グループ会社間で自由に設定した価格で物品の販売やサービス提供をした場合、このグループ会社がA国からB国に移転させる利益をコントロールできることになってしまいます。国を越えて利益が移転することは、利益の移転した国にとっては税収減につながります。これを防ぐため、各国では国外関連者との取引は、独立の第三者間の取引で成立する価格(独立企業間価格)に基づき行われなければならないとする制度を導入しております。
この制度は移転価格税制と呼ばれ、移転価格税制の規定に関する各国の足並みを揃えるため、OECDは移転価格税制のTPガイドラインを公表しています。日本やインドの移転価格税制で認められている独立企業間価格(Arm's Length Price - ALP)の算定方法も、そのOECDのTPガイドラインが規定する方法を参照しています。なお、インドの法令上でOECDのTPガイドラインの直接的な適用を認めたものはありませんが、最高裁判所の判決を含め、多くのインドの判決ではTPガイドラインが法定の解釈における信頼できる参照文献として引用されています。
独立企業間価格(Arm's Length Price - ALP)の算定方法の選定までの流れ
独立企業間価格(Arm's Length Price - ALP)の算定方法を選定する際には、次の流れで選定していくことが一般的です。
①自社及び国外関連者の事業内容等の検討(機能、資産、リスク分析)
②自社と国外関連者間で行う国外関連取引の内容等の検討(機能、資産、リスク分析)
③非関連者取引(Uncontrolled Transactions)に係る情報源の検討(経済分析)
④比較対象取引(Comparable Uncontrolled Transactions)候補の有無の検討(経済分析)
⑤最も適切な算定方法の選定(経済分析)
上記の②及び③に関しては、国外関連取引と非関連者取引の比較可能性は下記の観点から判断されます(1962年インド所得税法規則第10B条2項)(2026年インド所得税法規則第79条2項)。
- 国際関連取引に係る資産や提供されたサービスの特徴
- 使用する又は使用予定の資産や負担するリスクを考慮した上で、自社又は国外関連者が果たす機能
- 自社と国外関連者間で責任、リスク、便益をどのように分担するか定めた取引の契約条件
- 自社と国外関連者が事業を営む市場の状況
なお、国外関連取引と非関連者取引間に差異があった場合であっても、その差異が価格や利益に重大な影響を及ばさない場合や重大な影響を排除するために合理的で正確な調整が可能な場合には、その非関連者取引は国外関連取引と比較可能性を有すると判断できます(1962年インド所得税法規則第10B条3項)(2026年インド所得税法規則第79条3項)。
上記の③及び④に関しては、外部の情報としてインドの企業情報データベース(Prowess Database、Ace TP、Capitaline TP、Thomson Reuters ONESOURCE等)を参照し、数ある比較対象取引候補を定量的(取引規模等)かつ定性的(産業分類、ビジネスモデル等)のフィルターを設け、スクリーニングしていき、比較対象取引を決定していくことが一般的です。なお、インド税法はこの比較対象取引を決定する具体的な手続きの方法は特段規定していません。日本に比べてインドの法人数は少なく、日本ほどの厳格な比較対象取引を選定できないケースもインドの移転価格税制の実務上はあります。
上記の⑤に関して、インドの移転価格税制上での独立企業間価格(Arm's Length Price - ALP)では、以下のいずれかの方法の内、最も適切な方法で算定する必要があります(1961年インド所得税法第92C条1項、1962年インド所得税法規則第10B条1項)(2025年インド所得税法第165条1項、2026年インド所得税法規則第79条1項)。なお、各算定方法はOECDのTPガイドラインに準拠しています。
- 独立価格比準法(Comparable Uncontrolled Price Method - CUP):取引価格自体を直接比較する方法であり独立企業間価格を算定する最も直接的な方法である。適用に当たって比較する取引との機能・リスク、製品等の厳密な同一性(製品、取引段階、取引数量等)が求められる。基本三法の一つ。
- 再販売価格基準法(Resale Price Method - RPM):売上総利益率の水準を比較する方法であり売上総利益が価格と近接した関係にあることを考慮すると独立価格比準法に次いで独立企業間価格を算定する直接的な方法といえる。主に販売機能を果たしている取引に適用され、比較する取引との機能・リスク、製品等の類似性が求められる。基本三法の一つ。
- 原価基準法(Cost Plus Method - CPM):コストマークアップ率の水準を比較する方法であり売上総利益が価格と近接した関係にあることを考慮すると独立価格比準法に次いで独立企業間価格を算定する直接的な方法といえる。主に製造機能を果たしている取引に適用され、比較する取引との機能・リスク、製品等の類似性が求められる。基本三法の一つ。
- 利益分割法(Profit Split Method - PSM / 寄与度利益分割法及び残余利益分割法):比較対象取引を見いだせない場合に有用な方法であるが、内部取引での機能・リスクの配分と利益配分が見合っているか否かが測定される。
- 取引単位営業利益法(Transactional Net Margin Method - TNMM):営業利益率(対売上、総費用、資産等)の水準を比較する方法であるが営業利益は売上総利益に比べ価格と近接した関係になく、基本三法と比べて間接的な方法といえる。ただ、機能の差異は販管費及び一般管理費の水準差として反映されることを考慮すると比較する取引との機能・リスク、製品の類似性の要求水準は低く、公開情報から比較対象取引を見いだしやすいというメリットがある。
- 直接税中央委員会(Central Board of Direct Taxes - CBDT)が規定するその他の方法:1962年インド所得税法規則10AB条 / 2026年インド所得税法規則第78条参照
なお、上記の各算定方法の内、最も適切な方法を選定する際には下記の点を考慮することが求められます(1961年インド所得税法第92C条1項、1962年インド所得税法規則第10C条2項)(2025年インド所得税法第165条2項a号、2026年インド所得税法規則第80条2項)。
- 国外関連取引の性質や種類
- 国外関連取引を行う関連者の種類、関連者が使用する又は使用予定の資産や負担するリスクを考慮した上で関連者の果たす機能
- 各手法の適用に必要なデータの入手可能性、網羅性、信頼性
- 国外関連取引と非関連者取引との類似性の程度(比較可能性)
- 国外関連取引と非関連者取引間の差異や関連者と非関連者取引を行う企業との差異を説明するために、信頼しうる正確な調整を行うことができる程度
- 各算定方法を適用する際に必要とされる仮定の性質、程度、信頼性(各算定方法の長所と短所)
上述の①~⑤で独立企業間価格(Arm's Length Price - ALP)の算定方法を決定後には、下述の方法で独立企業間価格(Arm's Length Price - ALP)の決定を進めます。実務上は、これらの決定のフローは完全に一方向ではなく、暫定的な算定方法の選定と比較可能性の分析を往復することが多いです。例えば、取引の性質から見ると独立価格比準法(Comparable Uncontrolled Price Method - CUP)が理論上は最も直接的に見えても、実際には信頼できる内部CUPや外部CUPが存在しない場合があります。その場合、比較可能性の分析やデータベース検索の結果、取引単位営業利益法(Transactional Net Margin Method - TNMM)の方が信頼性の高い結果を出せるとして、TNMMを適切な算定方法として選定することが実務上は考えられます。
独立企業間価格(Arm's Length Price - ALP)として認められる価格幅の設定方法
独立企業間価格(Arm's Length Price - ALP)の最も適切な算定方法が選定された後は、経済分析の一環として、実際の独立企業間価格(Arm's Length Price - ALP)を求めていきます。なお、独立企業間価格(Arm's Length Price - ALP)の最も適切な方法が上記の「2」「3」「5」の場合には、片側検証(One-sided Test)となるため検証対象当事者(Tested Party)の選定を行います。
独立企業間価格(Arm's Length Price - ALP)を算定する際の比較対象取引のデータは、国外関連取引の生じた年度のデータを用います。ただ、最も適切な方法が上記の「2」「3」「5」の場合で、所得税申告時に国外関連取引の生じた当年度の比較対象取引のデータが入手できない場合は、前年度の比較対象取引のデータを用いることができます。ただし、その後の税務調査の時点で当年度の比較対象取引のデータが入手可能になった場合には、所得税申告時に入手できなかったとしても、その当年度の比較対象取引のデータを用いなくてはなりません(1962年インド所得税法規則第10B条4,5項)(2026年インド所得税法規則第79条4,5項)。
最も適切な方法で唯一の価格が算出される場合
最適な比較対象企業の比較対象取引が見つかり、最も適切な方法で算出した価格が1つに定まれば、その価格等が独立企業間価格(Arm's Length Price - ALP)となります。また、その算出された価格と実際の取引価格の変動が後者の中央政府が通知する割合(上限3%)を超えない場合には、実際の取引価格が独立企業間価格(Arm's Length Price - ALP)となります(2025年インド所得税法第165条3項a号)。最適な比較可能な非関連者間取引が1件見つかり、独立価格比準法(Comparable Uncontrolled Price Method - CUP)で適切な販売価格を決定できる場合等です。
最も適切な方法で算出した価格が2つ以上算出される場合
最適な比較対象企業が複数見つかり、最も適切な方法で算出した価格が2つ以上算出される場合には、それらを昇順に並べたものをデータセットとして扱い、そのデータセットに基づいて独立企業間価格(Arm's Length Price - ALP)を計算します。また、最も適切な方法が上記の「2」「3」「5」の場合で、外部の比較対象企業が複数年度で同種、類似の比較対象取引を行っている場合には、当年度 / 前年度 / 前々年度の3年または前年度 / 前々年度の2年のデータの加重平均値がデータセットを構成します。ただし、当年度データを確認した結果、当年度に同種、類似の非関連者取引がない場合や比較可能取引ではない場合には、加重平均値はデータセットに含めることはできません(1962年インド所得税法規則第10CA条1,2,3項)(2026年インド所得税法規則第81条3,4項)。
加えて、最も適切な方法が上記の「1」「2」「3」「5」の場合で、かつデータセットが6つ以上の比較対象企業や比較対象取引から構成される場合には、データセットの上位35%と下位35%を切り捨てた中央部分の幅をもって独立企業間価格幅(Arm's Length Range)とします。そして、実際の関連者との国外関連取引の際に採用された取引価格が、この幅に収まっている場合には、その価格は独立企業間価格(Arm's Length Price - ALP)であるとみなされます。一方で、実際の取引価格がこの幅に収まっていない場合にはデータセットの中央値(Median)の価格が独立企業間価格(Arm's Length Price - ALP)となります(1962年インド所得税法規則第10CA条4,5,6項)(2025年インド所得税法第165条3項b号、2026年インド所得税法規則第81条6項)。
また、データセットを構成する比較対象企業が6社未満等の場合や最も適切な方法が上記の「4」「6」の方法の場合には、データセットの算術平均値(Arithmetical Mean)の価格が独立企業間価格(Arm's Length Price - ALP)となります。算術平均値で求められた独立企業間価格(Arm's Length Price - ALP)と実際の取引価格の変動が後者の中央政府が通知する割合(上限3%)を超えない場合には、実際の取引価格は独立企業間価格(Arm's Length Price - ALP)とみなされます(1962年インド所得税法規則第10CA条7項)(2025年インド所得税法第165条3項a号、2026年インド所得税法規則第81条7項)。
日本の移転価格税制では、比較可能性が十分な非関連者間取引が複数存在し、独立企業間価格(Arm's Length Price - ALP)が一定の幅を有する場合には、独立企業間価格(Arm's Length Price - ALP)として認められる価格幅の設定の際には基本的に四分位法の考え方が用いられます。四分位法とは比較対象取引を最も小さいものから順次その順位を付し、上位25%と下位25%を切り捨てた中央部分の幅をもって独立企業間価格幅とする考え方です。一方で、インドの移転価格税制では四分位法は採用しておらず、比較対象の上位35%と下位35%を切り捨てることになっており、日本に比べ比較対象の外れ値を排除する割合が高いことになります。
参考文献:日本国税庁「別冊 移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」
執筆・監修
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鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
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新井 辰和 | Tatsuo Arai |


