インドの移転価格税制は1961年に租税回避に係る特別規定(Special provisions relating to avoidance of tax)としてインド所得税法第92条が設けられました。その後、2001年に第92条の改正、第92A~第92F条が設定され、インドでも先進国と同等レベルの移転価格税制が導入されました。複数の国に展開する企業が、海外のグループ会社(国外関連者)との取引価格を、第三者企業との取引価格と異なる金額で行った場合、自身の利益を国外関連者に移転することが可能となります。国を越えて利益が移転することは、利益の移転した国にとっては税収減につながるため、各国では国外関連者との取引は第三者企業と同一の水準の価格(独立企業間価格)で行われたものとみなして所得を計算し課税する制度を移転価格税制と言います。なお、BEPSの行動計画13「多国籍企業の企業情報の文書化」に関連して、インドで求められるコンプライアンス(国別報告書/マスターファイル/ローカルファイルの作成、提出等)についてはこちらをご参照ください。
目次
- 適用対象企業
- 関連者(Associated Enterprise)とは?
- 国際関連者取引(International Transaction)及び特定国内取引(Specified Domestic Transaction)とは?
- 独立企業間価格(Arm's Length Price - ALP)の算定方法
- 事前確認制度(Advance Pricing Agreement - APA)
- セーフハーバールール(Safe Harbor Rules - SHR)
- 第一次調整(Primary Adjustment)
- 第二次調整(Secondary Adjustment)
適用対象企業
インド所得税法第92条は2以上の関連者との国際関連者取引(International Transaction)並びに、特定国内取引(Specified Domestic Transaction)は独立企業間価格(Arm's Length Price - ALP)で行われなければならないと規定しています。独立企業間価格(Arm's Length Price - ALP)とは、独立した第三者と取引する際と同等の価格という意味です。関連者として以下の者が定義されています。
関連者(Associated Enterprise)とは?
関連者は、以下の事業体を指します(インド所得税法第92A条1項)。
- 直接もしくは間接的又は単独もしくは複数の仲介者(intermidiaries)を経て、経営、支配又は資本に関与する関係にある事業体
- ある事業体Aの経営、支配、資本に、直接もしくは間接的又は単独もしくは複数の仲介者(intermidiaries)を経て関与している者のうち、1人以上が、他の事業体Bの経営・支配・資本にも同様に関与している場合、それらの事業体Aと事業体B(例:同一親会社を持つ兄弟会社)
また、会計年度の間にいずれかの期間に以下のいずかに該当した2つの事業者が関連者とみなされます(1961年インド所得税法第92A条2項)(2025年インド所得税法第162条)。
- 一方の企業が他方の企業の26%以上の議決権を持つ株式を直接又は間接的に保有している場合
- 同一の人物又は企業が一方及び他方の企業の26%以上の議決権を持つ株式を直接又は間接的に保有している場合
- 他方の企業の総資産の簿価額51%以上の貸付を一方の企業が行っている場合
- 他方の企業の借入総額の10%以上の債務保証を一方の企業が行っている場合
- 他方の企業の取締役会の過半数の取締役を一方の企業が任命、又は他方の企業の1名以上の常勤取締役(Executive director)を一方の企業が任命している場合
- 同一の人物又は企業が一方及び他方の企業の取締役会の過半数の取締役を任命、又は一方及び他方の企業の1名以上の常勤取締役(Executive director)を任命している場合
- 他方の企業の製品の製造、加工又は事業経営が一方の企業のノウハウ、特許、知的財産、商標、ライセンス等その他の商業的権利に完全に依存している場合
- 他方の企業の製造、加工に使用される90%以上の原材料又は消耗品が一方の企業又は一方の企業が指定する特定の者から提供され、かつその提供価格やその他の条件が一方の企業の影響を受けている場合
- 他方の企業の製造、加工された製品が一方の企業又は一方の企業が指定する特定の者に販売され、かつその提供価格やその他の条件が一方の企業の影響を受けている場合
- 他方の企業が個人(Hindu undivided familyを含む)によって支配されており、一方の企業がその個人、その親族又は彼らの共同で支配されている場合
- 他方の企業がファーム、AOP、BOIであり、一方の企業がそのファーム、AOP、BOIの10%以上の持分を保有している場合
- 一方の企業と他方の企業に別途規定された共通の利害関係を有する場合
国際関連者取引(International Transaction)及び特定国内取引(Specified Domestic Transaction)とは?
国際関連者取引(International Transaction)とは、少なくとも片方がインド非居住者である場合の2以上の関連者間の取引(国外関連者との取引)を指します。この取引には有形資産及び無形資産の購買 / 販売 / リース、サービス提供、資金の貸付 / 借入、または利益・所得・損失・資産に影響を及ぼすいかなる取引を指し、費用負担契約を含むとされており、対象範囲は幅広く規定されています(インド所得税法第92B条1項)。また、みなし国際関連者取引(Deemed International Transaction) も規定されてます。A社とは非関連者のB社と、A社とは関連者のC社がいたとします。A社とB社の間の取引であっても、例えばC社とB社の間で従前の契約がある場合や、取引条件がC社とB社の間で実質的に決められている場合の取引は、A社とC社の少なくとも片方がインド非居住者である場合には、A社とB社の間の取引は国際関連者取引とみなされます(インド所得税法第92B条2項)。
一方で特定国内取引(Specified Domestic Transaction)とは、合計2億ルピー/年間を超える、直接関係や免税者と緊密な関係にある者との一定のインド国内取引等(上記の国際関連者取引に該当する取引を除く)を指します(インド所得税法第92BA条)。
独立企業間価格(Arm's Length Price - ALP)の算定方法
関連者との国際関連者取引並びに特定国内取引の独立企業間価格(Arm's Length Price - ALP)は、取引の性質、種類、関連者の種類や遂行する機能、またはその他の関連要因を加味した上で、以下のいずれかの方法の内、最も適した方法で算定する必要があります(インド所得税法第92C条1項)。算定方法はOECDのガイドラインに準拠しています。
- 独立価格批准法(Comparable Uncontrollable Price Method - CUP)
- 再販売価格基準法(Resale Price Method - RPM)
- 原価基準法(Cost Plus Method - CPM)
- 利益分割法(Profit Split Method - PSM / 寄与度利益分割法及び残余利益分割法)
- 取引単位営業利益法(Transnational Net Margin Method - TNMM)
- 直接税中央委員会(Central Board of Direct Taxes - CBDT)が規定するその他の方法(インド所得税法細則10AB条参照)
なお、適切な独立企業間価格(Arm's Length Price - ALP)の算定方法についての詳細はこちらにまとめています。
事前確認制度(Advance Pricing Agreement - APA)
移転価格税制の元での取引価格の決定は、双方の国でバランスを取らなければならず国際関連者取引の多い企業にとって問題になる課題の一つです。インドでの移転価格リスクを軽減した場合、取引先の相手国での移転価格リスクは増大するトレードオフの関係にあり最適な解を見つけることは難しく税務当局と係争も堪えません。
そんな中で将来的な税務訴訟の係争リスクを軽減できる手段として事前確認制度(Advance Pricing Agreement - APA)がインドでも利用可能です(インド所得税法第92CC条)。適用対象期間は5年間とし、4年間のロールバック申請も可能となっています。インドで申請可能なAPAは以下の3種類です。
- ユニラテラルAPA(Unilateral APA)
- 2国間APA(Bilateral APA)
- 他国間APA(Multilateral APA)
セーフハーバールール(Safe Harbor Rules - SHR)
APA以外にも移転価格リスクを軽減できる手段としてセーフハーバールール(Safe Harbor Rules - SHR)があります。SHRを適用した場合、納税者が申告した移転価格が税務当局に受け入れられ、インド側では更正処分されるリスクなく、国外関連者取引を行うことができるようになります(インド所得税法第92CB条)。詳細はこちらにまとめています。
第一次調整(Primary Adjustment)
国際関連者取引(International Transaction)での実際の取引額が、独立企業間価格でなかった場合には、納税者自らまたは税務調査での指摘等に基づき、その取引額が独立企業間価格になるよう調整が行われます。この調整を第一次調整(Primary Adjustment)と呼びます。
この第一次調整(Primary Adjustment)は、価格調整金として納税者(インド法人)が関連者にDebit Noteを発行し取引価格を修正し、納税者の利益を上方修正する方法が考えられます。または、インド所得税法第92CE条1項i号が規定する、所得税申告書上のみで自主的に(suo motu)で所得金額を修正する方法も考えられます。
しかし納税者自らがこの第一次調整(Primary Adjustment)を行った場合であっても、税務調査で指摘されるリスクは残ります。インドの税務調査では税務調査官(TOP)が価格調整を営業外収入(Non-operating)とみなし独立企業間価格の算定に寄与されない等のロジックで、自主的な価格調整の行為自体を否認するリスクです。
第二次調整(Secondary Adjustment)
第一次調整(Primary Adjustment)にて、差額分の課税所得を修正するだけでは、関連者(Associated Enterprise)内で実際に移動したキャッシュや純資産が変わらないため、本来なら関連者(Associated Enterprise)間で動いていたはずの資金にずれが残ることになります。このずれを会計帳簿上で調整し、現金勘定と実際の利益額の差異をなくすことを第二次調整(Secondary Adjustment)と呼びます。
第一次調整が下記の場合に、第二次調整が求められますが、第二次調整が適用されるのは第一次調整の金額が1,000万ルピー超の場合のみです(インド所得税法第92CE条1項)。
- 税務申告書上の自主的な調整
- 税務調査の結果により納税者が受け入れた、税務当局による調整
- 事前確認制度(Advance Pricing Agreement - APA)に基づく調整
- 相互協議手続(Mutual Agreement Procedure - MAP)に基づく調整
- セーフハーバーに基づく調整
第一次調整での調整差額が90日以内に国外関連者からインド国内に返還されない場合には、当該差額は国外関連者へのみなし貸付金(Deemed Advance)であるという整理の上、インド国内企業にてみなし利子が毎年計算されます(インド所得税法第92CE条2項、インド所得税法細則第10CB条)。利子率は該当の国際関連者取引(International Transaction)がインドルピー建てか外国通貨建てかによってそれぞれ規定されています。
一方で、第一次調整での調整差額を国外関連者からインド国内に返還されない場合であっても、納税者が第一次調整での調整差額に対して法人税率18%(実効税率20.9664%)を自主的に納税した場合、その納税が最終納税となり、インド国内企業にてみなし利子が毎年計算されることはありません(インド所得税法第92CE条2A,2B項)。
執筆・監修
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鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
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新井 辰和 | Tatsuo Arai |


