最低代替税(Minimum Alternate Tax - MAT)とは、会計上の利益の15%がインド所得税に基づいて算出された法人税額を上回る場合に支払う必要のある法人所得税です。MATは税法上の様々な税額控除や税制優遇を活用して単年の納税額を減額することを防ぐことを目的とした、日本法人税法にはないインド特有の概念となるため注意が必要です。
納税者は、通常の所得税法上計算される法人税額と、「調整後の会計帳簿上の利益(Book Profit)」に基づいて計算されるMATの税額を比較しいずれか高い金額を納付することになります。つまり、会計帳簿上では利益が出ているものの、繰越欠損金等を考慮した場合には法人税額が算出されない又は少額である場合であっても、MATの納税が必要になる場合があります。
MATの計算方法
まずMATは「調整後の会計帳簿上の利益(Book Profit)」に基本税率15%を乗じて算出します(2019年度まではこの税率は18.5%でした)。加算税(Surcharge)及び4%の健康教育目的税(Health and Education Cess)も基本税率15%に加算され実効税率が決定されます。
この「調整後の会計帳簿上の利益(Book Profit)」は損益計算書の税引後当期純利益をベースにインド所得税法第115JB条2項Explanation 1で定められた加算/減算調整項目を加味して計算します。この加算調整項目の1つにに法人税額が含まれているため(税引後当期純利益に法人税額を足し戻すことになるため)、税引前当期純利益をベースにその他の加算/減算調整項目を加味して、MATを算出すると整理することもできます。なお、ここでいう損益計算書とは2013年インド会社法Schedule Ⅲに基づいて作成される、法定監査対象の損益計算書を指します。
MATが適用されない又は軽減される法人
インド所得税法第115BAA条が規定する22%(実効税率:25.17%)や第115BAB条の規定する新規製造業が適用可能な15%(実行税率:17.16%)の新法人税率を選択する法人の場合には、法人税額の計算の際に基本的に様々な税額控除や税制優遇を考慮することができないこともあり、MATは適用されません。生命保険事業を営む法人の一定の所得にもMATは適用されません(インド所得税法第115JB条5A項)。
また、インドグジャラート州のGIFTシティー等の国際金融サービスセンター(International Financial Services Centre - IFSC)に所在する転換可能な外国為替のみで所得を稼得している法人(Unit)の場合には、MATの基本税率は15%から9%に減額となります(インド所得税法第115JB条7項)。
MATの支払税額控除
MATとして支払った税額とインド所得税法で計算された通常の法人額の差額は、MATクレジットとして15年間繰越可能です(インド所得税法第115JAA条1A,2A,3A項)。MATクレジットは、翌年以降の年度でインド所得税法で計算される通常の法人税額がその年度のMATを上回る場合にその差額より控除可能です(インド所得税法第115JAA条4,5項)。
よって、MATは通常の法人額の前払いの性質があると言えます。
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |