税務当局から発行された更正処分通知の内容に納得できない納税者は、コミッショナーアピール(インド所得税のコミッショナーアピール、GSTのコミッショナーアピール)として不服申し立てを行うのが一般的です。一方で不服申し立ての手段としてWrit Petitionと呼ばれる方法を選択する場合がありますが、インドのWrit Petitionとはどのような制度なのでしょうか?
インド憲法が定めるWrit Petition
「Writ」とは裁判所の文書による命令や令状を意味し、「Petition」とは請願という意味の英語です。よって、Writ Petitionとは「裁判所に対して命令をを出すよう請願する」手続きと理解できます。基本的な権利(Fundamental Right)の侵害から守るために、インド憲法は最高裁判所、高等裁判所にWritを発する権限を与えており、インド憲法32条が最高裁判所のWritを、インド憲法226条が高等裁判所のWritをそれぞれ規定しています。インド憲法では下記5種類のWritが列挙されています。
1 | Habeas Corpus(人身保護令状) | 不法に拘置、監獄された者を釈放するように命じるWrit |
2 | Mandamus(職務執行令状) | 税務当局等の公の機関に対して法律に基づいて行うべき義務付けられている特定の行為を行うように命じるWrit |
3 | Prohibition(禁止令状) | 下級裁判所等に対しその訴訟手続が管轄権を有しない/管轄権を超えている、国の法律に反している、または自然正義の規則に反しているという理由でその手続の継続を禁じるWrit |
4 | Quo Warranto(権限開示令状) | 公職に就く権利を問うWrit |
5 | Certiorari(裁量上訴) | 下級裁判所等が下した命令が管轄権を持たず、あるいは自然正義に反している場合にそれを破棄するように命じるWrit |
基本的な権利に関するWrit Petitionのみを受け付ける最高裁判所に比べて、高等裁判所が受け付けるWrit Petitionの範囲は広いです。また最高裁判所はインド全土の当局等に対してWritを発することができる一方で、高等裁判所は自らがする管轄の地域の当局等に対してのみWritを発することができます。
更正処分通知に対するWrit Petition
税務当局の発行した更正処分通知が法律の規定に則って発行されていない場合や更正処分通知が発行されるまでの税務調査手続きが法律に則っていなかった場合には、更正処分通知を受け取った納税者はWrit Petitionを申請することを検討します。ただ、Writを発するか否かの裁量権は高等裁判所にあり、納税者にとってコミッショナーアピール等の代替的救済手段で解決する手段がある場合には、高等裁判所にWrit Petitionを受理してもらえない場合もあります。そのため、納税者の実際のケースがWrit Petitionの申請にそぐうか否かは弁護士とも相談しながら慎重に検討する必要があります。
Writ Petitionの申請の際には、申立書(Notice of Motion)が提出され、高等裁判所は納税者に暫定的救済措置(Interim Relief)を認めることがあります。納税者の申請に対して被告人(税務当局)は反証言(Counter Affidavit)を高等裁判所に提出し、納税者はそれに対して再弁論(Rejoinder)を行うことができます。高等裁判所が両者からの弁論を聞いた後、Writ Petitionに対する認可または却下が高等裁判所から下されます。納税者に有利な高等裁判所の税務当局に対するWritとしては、更正処分通知の棄却命令や再調査命令等が考えられます。
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |