インドの税務調査では、所得税当局の税務調査官の強引なロジックにて、納税者に不利な更正処分が一方的に下されてしまうケースがあります。そのため、税務調査後に不服申立て手続きや訴訟手続きに進むことも想定しながら、税務調査の初期から文書回答のロジックを戦略的に構築していくことが求められます。
以下では、インドの所得税法に関する税務調査についてまとめます。なお、GST法の税務調査についてはこちらを参照ください。
目次
- 税務調査の種類
- 略式の税務調査(Summary Assessment)
- 精緻な税務調査(Scrutiny Assessment)
- 再調査(Re-Assessment)
- ベストジャッジメント(Best Judgement)
- 税務調査で課せられる延滞利息とペナルティ
- 更正処分通知受領後の対応
税務調査の種類
納税者は課税年度ごとに所得税申告(Self Assessment)として、所得税申告書(Income Tax Return - ITR)を通して税務申告を行います。インド所得税当局はその申告内容に対して税務調査を行いますが、インドでは税務調査は「Assessment」と呼ばれ、大きく分けて4種類の税務調査に分類できます。
税務調査通知を受け取った場合には、インド所得税法のどの条分に基づくどの種類の税務調査の通知であるのか、まずは確認することが重要です。
なお、移転価格税制の税務調査を除く所得税の税務調査については、非対面型の税務調査となっており、国家非対面調査センター(National Faceless Assessment Center -NFAC)が納税者とのコミュニケーション窓口として機能します(1961年インド所得税法第144B条1項)(2025年インド所得税法第273条)。
以下では、4つの税務調査ごとに【概要】【手続きの流れ】【期間】をまとめています。なお、インド所得税法は所得税当局が納税者に対して税務調査通知を発行できる期間を税務調査ごとに定めていますが、具体的な各種税務通知の発行期日を各会計年度ごとにまとめた一覧表はこちらをご参照ください。
略式の税務調査(Summary Assessment)
【概要】1961年インド所得税法第143条1項 / 2025年インド所得税法第270条1項の定める略式の税務調査(Summary Assessment)は、所得税当局の税務調査官が介入することは無く、所得税当局の中央処理センター(Centralized Processing Centre -CPC)が自動的に電子処理する予備的な調査の意味合いがある税務調査です。申告されたすべての所得税申告書に対して、CPCにて略式の税務調査が行われます。以下のような場合で、申告内容に調整が生じ追加納税等が認識された際には、この税務調査の通告(Intimation)が納税者に発行されます。
- 所得税申告書に計算上のエラーがある場合
- その他の税務データ(Form16,Form16A,Form26ASなど)と所得税申告書に不整合がある場合
- 過年度の所得税申告書と整合が取れない場合
- 利用できない繰越欠損金を利用している場合
- 税務監査レポートと所得税申告書に不整合がある場合
- 利用できない所得控除を利用している場合
インドでは所得税申告等の税務申告の自動化が進められており、納税者は納税者番号(Permanent Account Number - PAN)に基づき捕捉されます。そのため所得税申告情報がその他の税務データと整合が取れているかの確認等が自動的に行われ、整合がとれていない場合には納税者に自動的に通告が発行されます。
【手続きの流れ】所得税申告内容が誤っている可能性がある場合には、正しい課税所得に申告内容が調整され、その金額に基づいた納税額及び延滞利息額が記載された上述の通告が納税者に対して発行されます。通告が発行されることなく申告内容の調整が行われることはありません。
この通告は、追徴課税通知(Notice of Demand)とみなされるため(1961年インド所得税法第156条1項但し書き)(2025年インド所得税法第289条2項)、通告が発行されてから30日以内に納税者が適切に回答を行わない場合には申告内容の調整が行われます(1961年インド所得税法第143条1項a但し書きの2)(2025年インド所得税法第270条2項b号)。なお、通告の記載内容に誤りがある場合には、所得税ポータルより訂正(Rectification)の申請を行うことができます(1961年インド所得税法第154条)(2025年インド所得税法第287条)。
CPCによる電子処理によって特に申告内容に調整が生じず、追加納税等が認識されない場合には、所得税申告時に発行される申告通知(Acknowledgement)がこの税務調査の通告とみなされ、納税者に追加の手続きは求められません(1961年インド所得税法第143条1項 説明書きb)(2025年インド所得税法第270条5項b号)。
【期間】通告は所得税申告書が提出された会計年度の最終日より9か月以内に納税者に発行されます(1961年インド所得税法第143条1項但し書きの2)(2025年インド所得税法第270条4項)。
精緻な税務調査(Scrutiny Assessment)
【概要】インド所得税法第143条2項,3項 / 2025年インド所得税法第270条8項,10項の定める精緻な税務調査(Scrutiny Assessment)は、所得税当局の税務調査官が下記の可能性を調査することが必要であるまたは適切であると判断した場合に行われる税務調査です。
- 納税者が所得を過小申告している
- 納税者が過大な損失を計上している
- 納税者の納税額が過少である
納税者の所得税申告内容が正しいか確認するために、税務調査官は所得税申告書の詳細な精査を行います。CPCが電子処理していた略式の税務調査とは異なり、精緻な税務調査は国家非対面調査センターの介入がある点が特徴です。
【手続きの流れ】税務調査官が精緻な税務調査が必要であると判断した場合には、NFACが調査通知(Notice)を発行します。当通知に記載された内容に基づき、納税者は必要書類の提出を所得税ポータルサイトを通じて行います。この段階で1961年インド所得税法第142条1項 / 2025年インド所得税法第268条1項に基づく税務通知を発行し、納税者の取引内容に関して照会(Inquiry)されることも実務上はあります。
NFACによる非対面での税務調査であるため、調査通知への回答や情報提供は所得税ポータルを通してオンラインで完結します。また、税務調査官の顔や氏名を伏せた状態にて、ビデオ会議にて質問回答を求められることもあります。税務調査官は納税者からの回答や提供された会計帳簿等を精緻に調査したうえで、必要に応じて、更正処分通知(Order of Assessment)を発行し、追加納税額または還付額が確定されます。
【期間】調査通知は所得税申告が提出された会計年度の最終日より3月以内に納税者に発行されます(インド所得税法第143条2項但し書き)(2025年インド所得税法第270条9項)。
また精緻な税務調査の更正処分通知及び追徴課税通知は該当する課税年度の翌会計年度の最終日より12か月以内に発行されます(1961年インド所得税法第153条1項但し書き、156条1項)(2025年インド所得税法第286条1項テーブルNo.1、289条1項)。ただ税務調査の過程で移転価格上の論点が把握され事案が移転価格調査官に付託された場合はこの期間がさらに12か月延長されます(1961年インド所得税法第153条4項)(2025年インド所得税法第286条2項)。また、納税者が更新申告書(Updated Return)を申告していた場合には、更新申告書が提出された会計年度を基準として、この期間が設定されます(インド所得税法第153条1A項)(2025年インド所得税法第286条1項テーブルNo.2)。
再調査(Re-Assessment)
【概要】上述の2つの税務調査期限が過ぎた後にでも、税務調査官は納税者側に税務調査から逃れた課税されるべき所得があると判断した場合には、再調査(Re-Assessment)という形で税務調査を行うことが可能です(1961年インド所得税法第147条)(2025年インド所得税法第279条)。再調査という名称には既に行なわれていた税務調査が再開するようなニュアンスがありますが、1961年インド所得税法第143条 / 2025年インド所得税法第270条での税務通告や調査通知の発行期日後に行われる税務調査を再調査と呼びます。この税務調査はIncome Escaping Assessmentと呼ばれることもあります。
【手続きの流れ】納税者に税務調査から逃れた課税されるべき所得があると示唆する情報を税務調査官が得た場合、情報開示を求める通知(Show Cause Notice - SCN)が発行され、納税者に対して再調査が適切でないと考える理由説明を行う機会が与えられます(1961年インド所得税法第148A条1項)(2025年インド所得税法第281条)。税務調査官はそれに対する納税者の回答及び入手している記録を考慮し、特定の機関から税務調査官が承認を得ることで、納税者に再調査の命令(Order)及び調査通知(Notice)が発行されます(1961年インド所得税法第148A条3項)(2025年インド所得税法第281条3項)。
この再調査の調査通知に基づき、3か月を超えない所定期間以内に納税者は所得税申告の再申告を所得税ポータルサイトを通じて行います。その後、納税者からの回答や提供された会計帳簿等を精緻に調査したうえで、必要に応じて、税務調査官は更正処分通知を発行し、追加納税額または還付額が確定されます。
【期間】2024年9月以降、再調査の開始前に発行される情報開示を求める通知は該当する課税年度の最終日より4年以内に納税者に発行されます。また課税から逃れた所得が500万ルピーを超える場合にはこの期間が6年まで延長されます(1961年インド所得税法第149条2項)(2025年インド所得税法第282条2項)。
また、再調査の場合の更正処分通知は、再調査の調査通知が出された会計年度の最終日より12か月以内に発行されます。(1961年インド所得税法第153条2項但し書き)(2025年インド所得税法第286条1項テーブルNo.4)。なお、2024年9月以降、調査通知は該当する課税年度の最終日より4年3か月以内に納税者に発行されますが、課税から逃れた所得が500万ルピーを超える場合にはこの期間が6年3か月まで延長されます(1961年インド所得税法第149条1項)(2025年インド所得税法第282条1項)。
さらに、税務調査の過程で移転価格上の論点が把握され事案が移転価格調査官に付託された場合は、この更正処分通知の発行期間がさらに12か月延長されます(1961年インド所得税法第153条4項)(2025年インド所得税法第286条2項)。
ベストジャッジメント(Best Judgement)
【概要】税務調査官が納税者から課税所得の計算に関して適切な情報を受領できない場合を想定し、1961年所得税法第144条 / 2025年所得税法第271条は税務調査官の裁量で納税額を決定できる旨を規定しています。この手続きはベストジャッジメント(Best Judgement)と呼ばれ、インドでは税務調査の1種類としてみなされます。
下記のような場合にはベストジャッジメントが行われます。
- 納税者が所得税申告や遅延申告や修正申告も怠る場合
- 1961年インド所得税法第142条 / 2025年インド所得税法第268条に基づく担当官からの照会(Inquiry)に対して、納税者が対応を怠った場合
- 精緻な税務調査の通知が発行されたにもかかわらず、納税者側が対応を怠った場合
【手続きの流れ】ベストジャッジメントを行う前に税務調査官は情報開示を求める通知を納税者に発行し、納税者に聴聞の機会を与えます。その後、税務調査官が収集したすべての関連資料を考慮した上で、税務調査官の自らの判断で課税所得を計算し更正処分通知を出し、納税額を決定します。
【期間】ベストジャッジメントでの更正処分通知及び追徴課税通知は該当する課税年度の翌会計年度の最終日より12か月以内までに発行されます(1961年インド所得税法第153条1項但し書き、156条1項)(2025年インド所得税法第286条1項テーブルNo.1、289条1項)。ただ税務調査の過程で移転価格上の論点が把握され事案が移転価格調査官に付託された場合はこの期間がさらに12か月延長されます(1961年インド所得税法第153条4項)(2025年インド所得税法第286条2項)。また、納税者が更新申告書(Updated Return)を申告していた場合には、更新申告書が提出された会計年度を基準として、この期間が設定されます(インド所得税法第153条1A項)(2025年インド所得税法第286条1項テーブルNo.2)。
税務調査で課せられる延滞利息とペナルティ
税務調査の結果として追加納税が必要になった場合には、本税に加えて延滞利息やペナルティが課せられることがあります。
【延滞利息】延滞利息は、基本的に納税不足額に対して単利1%/月で計算されることになりますが、1961年インド所得税法第234A条、第234B条、第234C条 / 2025年インド所得税法第423条、第424条、第425条の3つの条文がケース別に延滞利息を規定しています。詳細は例示とともにこちらでまとめています。
なお、税務調査の結果として追徴課税通知が発行され追加納税額が確定したにも関わらず、その後も30日を超えて滞納する場合には、単利1%/月で延滞利息が計算されます(1961年インド所得税法第220条2項)(2025年インド所得税法第411条3項)。
【ペナルティ】税務調査の結果、過少申告(Under-reported income)又は虚偽申告(Misreporting income)があったと所得税当局の税務調査官が判断した場合、下記のペナルティが課せられます。
| コンプライアンス違反 | ペナルティ額 | 参照条文 |
| 所得の未申告や過少申告 | Under-reported incomeに係る納税必要額の50%相当 | 1961年インド所得税法第270A条7項 / 2025年インド所得税法第439条9項 |
| 所得の虚偽申告 | Under-reported incomeに係る納税必要額の200%相当 | インド所得税法第270A条8項 / 2025年インド所得税法第439条10項 |
以下の場合には、虚偽申告に該当することになります(1961年インド所得税法第270A条9項)(2025年インド所得税法第439条11項)。
- 事実の虚偽表示または隠蔽
- 会計帳簿に投資を未記録
- 証拠によって裏付けられない経費の計上
- 会計帳簿への虚偽記載
- 総所得に影響を与える収入を会計帳簿に未記録
- 国際取引、みなし国際取引または特定の国内取引の未報告
さらに、税務調査の結果として追徴課税通知が発行され追加納税額が確定したにも関わらず、滞納する場合には納税者に事情聴取の機会を与えた上で、税務調査官は自らの裁量で未納税額を上限に追加のペナルティを課すことができます(1961年インド所得税法第221条)(2025年インド所得税法第412条)。
更正処分通知受領後の対応
一連の税務調査が終了後に、所得税当局から発行される更正処分通知に対して、納税者として不服申立てを行う際は、コミッショナーアピールや税務訴訟手続きに進むことになります。更正処分通知に不服がある場合は、所得税コミッショナー(Commissioner of Income Tax(Appeals) - CIT(A)) に不服申立てする場合は更正処分通知の最終版であるFinal Orderから30日以内、紛争解決機構(Dispute Resolution Panel - DRP)に不服申立てする場合は更正処分通知のドラフト版であるDraft Orderから30日以内に不服申立ての申請を行う必要があります(1961年所得税法第144C条、246条、249条)(2025年所得税法第275条、356条、358条)。詳細はこちらにまとめています。
更正処分通知を受領後に納税者のとれるアクションとしては、基本的に「納税をする」又は「不服申立てを行う」のいずれかになると言えます。そのため、更正処分通知の発行日から30日経過後も納税者がいずれのアクションも取られない場合には、所得税当局は、納税者から更正処分額の徴収を確実に進めるべく、銀行口座を含む財産の差押え等の強硬的な手段を単体又は組み合わせて取ることができます(1961年インド所得税法第222条、第220条)(2025年インド所得税法第413条、第411条)。
そのため、税務調査通知や更正処分通知を受領した場合は、放置しておかず適時、適切に対応していくことが求められます。
執筆・監修
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鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
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新井 辰和 | Tatsuo Arai |


