インドで会社設立を検討する際には、通常フィージビリティスタディ、市場調査などを行った後、現地側でどのような機能が必要かの分析を行います。現地側必要とされる機能に応じて、進出可能な形態が異なりますので詳細は以下の進出形態別の比較をご確認ください。また、設立手続きのスケジュール・各ステップについても以下の詳細よりご確認ください。
目次
インドの進出形態別比較
駐在員事務所(Liaison Office-LO) | 支店(Branch Office-BO) | 現地法人(株式会社) | プロジェクトオフィス(Project office-PO) | |
活動範囲 | 親会社との情報伝達・連絡業務など非常に限定的。営業・商業活動は禁止されている。 | 駐在員事務所よりも、広範囲な活動が可能。営業・商業活動も可。しかしながら製造行為、国内調達した物品の国内販売は禁止されている。 | 最も柔軟な活動形態。外国直接投資規制に準じる限りあらゆる活動が可能。 | 特定のプロジェクト、契約の履行の範囲に限定されている。 |
コンプライアンス負荷 | 支店と比較した場合、負担小 | 駐在員事務所よりも負担大 | 4つの形態で比較した場合、最も負担大 | 活動ないようによるが、現地法人よりは負担小 |
収益活動 | 禁止 | 可 | 可 | 可 |
利益の還流 | なし | 可 | 可 | 可 |
資金調達方法 | 本社からの送金 |
本社からの送金+インドでの収益 |
資本金+インドでの収益+ 借入 |
本社からの送金+ インドでの収益 |
アフターセールス活動 | 不可 |
可 |
可 |
可 |
責任 |
無限責任(親会社の責任) |
無限責任(親会社の責任) |
有限責任 |
無限責任(親会社の責任) |
存続期間 |
3年間(3年毎に延長の申請が可能) |
親会社が存続する限り |
事業が存続する限り、恒久的 |
プロジェクト期間に準じる |
撤退方法 |
各種当局からのNOC(異議なし証明書)+RBIからの認可 |
各種当局からのNOC(異議なし証明書)+RBIからの認可 |
各種当局からのNOC(異議なし証明書)+ 会社登記局からの認可 |
各種当局からのNOC( 異議なし証明書)+RBIからの認可 |
外国直接投資規制(Foreign Direct Investment - FDI Policy)の確認
統合FDIポリシーでは、外国企業の投資が禁止されている業種、出資上限比率及び出資に際し政府承認が求められる業種について定めています。製造業や卸売業などの一般的な業種は現在投資規制は課されておらず自動認可で100%まで出資可能となっています。
進出に際してはまずはインドで実施予定の事業が、投資規制の対象となっていないかを確認する必要があります。
インド会社設立スケジュール
会社設立に必要な期間は最短で1ヵ月半程度です。しかしながら通常は申請に必要な書類準備や、公証・認証(アポスティーユ)の取得、原本書類の郵送時間などを織り込む必要があるため、2~3カ月の猶予を見て頂いております。また手続きに要する時間は、インド側の祝祭日の都合によっても変化しますので余裕をもったスケジュールを立案することをお勧めいたします。設立をお急ぎの場合には、その旨お知らせください。
設立手続き所要期間
設立手続き | 期間 |
1. PAN + DSC 申請 | 3-4週間 |
2. 商号申請 | 10日 |
3. 会社設立登記 | 2-3週間 |
4. 会社登記住所の届け出 | 1日 |
5. 第一回取締役会開催 | 招集通知 1週間前、開催1日 |
6. 銀行口座開設 | 1週間 |
7. 資本金送金 | 2日 |
8. 株式割当 | 招集通知 1週間前、開催1日 |
9. インド準備銀行への報告 | 1日 |
10. 事業開始届の提出 | 1日 |
現在、インドの会社登記手続きは書類提出が全てオンライン化されています。よって設立登記のためにインドを訪問することは必要なく日本又は海外から登記プロセスを全て完了することが可能です。
ただし、会社設立書類の一部には株主代表者・各取締役の、ID・住所証明及びそれらの書類への公証・アポスティーユ取得などが必要となっており、順序だって準備を行わないと手続きプロセスが不必要に長くなる場合があります。
インド会社設立手続きの流れ
会社設立の手続きは大まかに4つのステップに分類することが可能です。
- 取締役登録の準備(以下1)
- 商号申請(以下2)
- 会社設立登記(以下3)
- 設立登記後の各種コンプライアンス(以下4~10)
それぞれのステップは、前のステップが完了しないと進めることは出来ませんが、書類の準備・署名の取得・必要書類の公証+アポスティーユ(認証)取得は平行して進めることが可能です。設立期間の短縮の要点は、いかに必要書類を並行して準備できるかにあります。
1. 取締役登録の準備(PAN + DSCの取得)
インド所得税法上、全ての取締役はPAN(基本税務番号)の取得が義務付けられています。また、インド会社設立登記の際に、取締役候補のうち最低1名のDSC(電子署名証書)が必要となります。
<設立時の取締役要件>
- 最低取締役人数:2名(うち、1名は居住取締役)
※PANとDSCは個別に取得することも可能ですが、PANと紐づいたDSCを求められることがあるためまずPANを取得し、その後DSCを取得することを推奨しています。
<必要書類>
- ID証明書類(パスポートコピー)
- 住所証明書類(運転免許証+その英訳又は銀行明細+その英訳)
※上記書類には、公証役場において公証+アポスティーユ取得又は公証+インド大使館の認証が必要となります。
2. 商号申請
インドの会社登記局へ商号の申請を行います。通常は複数候補を用意し、登記局へ提出し審査結果を待ちます。既に商標登録されている場合、類似した商号が存在する場合など、候補が却下された場合にはその理由が明記され連絡がきます。申請に際しては会社登記局へSPICe+Part Aという様式を使用して申請を行います。現在は、一度の申請で申請できるのは最大2つの商号で、最大2回の申請枠がありますので合計4つの商号を申請可能です。
尚、候補が却下された場合、15日以内に他の商号候補を提出することが認められています。商号取得が完了すると、会社登記局よりレターが配信され、取得した商号は20日間有効です。尚、有効期限は一定の費用を支払うことにより延長が可能です。何らかの要因で会社設立登記書類の作成などが遅延し、有効期限内に申請が行えない場合に延長します。
また、本手続きを省略して会社登記プロセスを行うことも可能です。但し、その場合登記プロセスでは、1つの商号しか選択できません。よって、類似の商号が存在しており、登記局側での審査に通らない可能性がある場合には、事前に商号申請を行うことをお薦めします。商号申請が完了すると、SRNという識別番号が発行されますので、その識別番号を会社登記の際に参照します。
商号申請に必要な書類はそれほど多くありませんが、取締役会の決議書形式(インドでは「Board Resolution」と呼ばれる書式)で候補となる商号を当局へ申請します。また、親会社の会社名と重複する名称の商号を使用する際には、同決議書中に異議なしとする証明(No Objection Certificate - NOC)を同時に記載します。
<必要書類>
- 親会社取締役会決議書(法人株主が複数社ある場合は、各社必要)
- 商標登録の証明書(Trade Mark Certificate)※インドで商標登録されている場合のみ
※上記書類には、公証役場において公証+アポスティーユ取得又は公証+インド大使館の認証が必要となります。
3. 会社設立登記
新様式(SPICe+Part B)は、従来バラバラであった会社設立手続きを統合した様式で、迅速な会社登記が可能となっています。本様式で、会社登記並びにDIN(取締役識別番号)の取得が可能です。尚、DINは設立時に最大3名まで、それ以上の人数にDINが必要となる場合には設立後にDIR-3という様式で新規に取得する必要があります。
会社登記登記局へ法人登記の申請を行います。登記の際には登記住所を設置する州ごとに定められた、印紙税を納付し登記を行います。
<必要書類>
- 定款(基本定款+付属定款)
- Form INC-9(株主からの宣言書)
- Form DIR-2(取締役就任にかかる同意書)
- PAN Undertaking(PANにかかる宣誓書)
- 株主代表者の住所証明(電気料金明細、電話料金明細又は銀行明細のいずれかの書類+その英訳)
- 発起人シート
※上記書類には、公証役場において公証+アポスティーユ取得又は公証+インド大使館の認証が必要となります。
<その他必要書類>
- 登記住所賃貸契約書
- 登記住所使用を許可する取締役決議書(No objection certificate - NOC)
- 登記住所が記載された公共料金明細
登記完了後、当局より会社設立証明(Certificate of Incorporation-COI)が配信されます。このCOIが日本の登記簿謄本のような登記を証明する書類です。
尚、2017年4月1日より法人登記と同時にPAN(納税者番号)とTAN(源泉徴収番号)が割り当てられる流れになってており、上述のCOIに記載があります。尚、PANとTANの発行元はインド所得税局となります。
※従前はプラスチックのカード送付がありましたが、現在は電子形式のみの配信となっております。
4. 会社登記住所の届け出(登記時に登記住所を確定していない企業のみ)
会社設立登記時に詳細な住所が決定していない企業は、設立登記州のみ決定すれば登記可能です。
一方で、会社設立登記時に登記住所を確定しなかった企業は登記完了後30日以内に、会社の登記住所を会社登記局へ届ける必要があります。申請に際しては"Form INC-22"と呼ばれる書式を使用します。
<必要書類>
- 公証済み賃貸契約書コピー
- 登記住所使用を許可する取締役決議書(No objection certificate - NOC)
- 登記住所が記載された公共料金明細
5. 第一回取締役会開催
登記完了後30日以内に、第一回の取締役会を開催することが義務付けられています。本取締役会では、会社設立内容の追認と初年度の監査人を選定します。また、ステップ6・7の申請に必要な決議も合わせて行っておくと、その後の手続きがスムーズです。
6. 銀行口座開設
資本金送金の受け皿となる銀行口座を開設します。銀行口座は、日系・インド系といずれの銀行でも構いません。デリーの場合、日系メガバンク3行(みずほ銀行、三井住友銀行、三菱東京UFJ銀行)が既に支店を開設しており、日本側でも事前に開設準備の対応をしてくれるので便利です。
7. 資本金送金
口座開設後、本社から開設した銀行口座向けにインドルピー建てで資本金の送金を行います。その際、誤って円建てで送金を行うと着金額と当初設定した設立時の払い込み資本金額と差額が発生し、事後の処理が煩雑になりますので必ずルピー建ての送金が必要です。
資本金が着金した後に、後述のインド準備銀行への報告に際して銀行より発行されるFIRC(Foreign Inward Remittance Certificate)及びKYC(Know Your Customer)が必要となります。
8. 株式割当
会社設立登記後60日以内に株式の割当を完了させる必要があります(インド会社法第56条4項a号)。その際に取締役会の決議が必要となりますので、着金後再度取締役会を開催する必要があります。
9. インド準備銀行への報告
上記株式割当から30日以内に、インド準備銀行(Reserve Bank of India - RBI)へ資本金着金及び株式割当の報告を行う必要があります。報告に際してはインド準備銀行のウェブサイト上で会社及びユーザーの登録を行う必要があります。
<必要書類>
- 取締役会決議書(株式割り当て)
- 銀行発行のFIRC(Foreign Inward Remittance Certificate)
- 銀行発行のKYC(Know Your Customer)
10. 事業開始届の提出
インド会社設立登記完了後180日以内に、事業開始届(Declaration for commencement of business: INC-20A)を会社登記局へ提出する必要があります(インド会社法第10A条1項)。提出に際しては銀行の口座情報が必要となるため、設立登記後はスムーズに口座開設の処理の準備をしておくことが必要です。
インド会社設立のメリット・デメリット
<メリット>
- 駐在員事務所、支店と比較した場合、外国直接投資規制の範囲内であらゆる活動が可能である
- リスクが出資金額を上限として限定されている
- 法人税率が他の進出形態と比較し低い点、特に製造業に関しては優遇されている
<デメリット>
- インド会社法に基づいた各種コンプライアンスの負荷が高い
- 撤退に際し清算等の手続きには時間を要する
- 駐在員事務所、支店等の外国会社の拠点と比較し自由に資金を送金できない(都度増資が必要)
インド支店設立のメリット・デメリット
<メリット>
- 親会社(外国会社)の拠点がインドに設立可能である
- 製造と国内売買取引以外のほぼ全ての商業活動が認められている
- 親会社からの資金の送金、資金の受領がスムーズに可能
<デメリット>
- 設立時に許可された活動のみを行うことが可能
- 外国法人として最高の法人税率が課せられる
- 一定期間ごとに許認可の更新が必要
インド駐在員事務所設立のメリット・デメリット
<メリット>
- 親会社(外国会社)の拠点がインドに設立可能である
- インド側で親会社との連絡業務のみが必要な際に活用可能
- 活動経費を全額親会社の負担で賄うことが可能
<デメリット>
- 現地側で商業活動を行っているとみなされた場合、PE課税を受ける可能性がある
- 一定期間ごとに許認可の更新が必要
最短でインドで会社設立をする方法
顧客からの引き合いがあり、すぐにでもインド現地の法人を設立する必要がある。インドのプロジェクト等の入札要件としてインド現地法人名義での入札が必要となるなど様々な理由から1日も早くインドで会社設立を行う必要がある場合があります。
そのような場合、通常通り日本側で本社等が発起人となって会社設立を行うと上記のスケジュールのように、最低1ヵ月半程度又はそれ以上の時間を要してしまいます。設立作業の大半は事前の取締役のPAN・DSC取得と日本側での書類作成及び公証・認証の取得であることから、会社設立完了までの時間を短縮するために全ての作業をインド国内で完結させるという手段があります。いわゆるペーパーカンパニーをインドの発起人(株主)と取締役にて登記を行います。登記完了後、当該法人の株式を正式な親会社及び株主へ譲渡するという流れになります。
株式譲渡及び取締役の変更は若干煩雑ではありますが、会社設立までの期間は圧倒的に短縮可能で2~3週間程度で作業が完了できます。
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |