日本親会社等のインド外国法人が保有するインド内国法人の株式を、第三者に譲渡する際には株式の売主であるインド外国法人でインド源泉のキャピタルゲイン又はキャピタルロスが発生します。キャピタルゲインが発生する場合、第三者による対価支払い時に源泉徴収税(Tax Deducted at Sources - TDS)の源泉徴収は必要となるのでしょうか?
ここでは、上記の図解の通りインド外国法人A社が保有しているインド内国法人B社の株式を第三者に譲渡すると仮定します。なお、A社はB社の株式を24か月以上保有しており、B社はインドの非上場の法人とします。A社が所在する国とインドの間で租税条約が締結されている場合には、A社の有利になる範囲で租税条約の適用ができますが、ここでは租税条約は考慮しないこととします。
株式の売主のキャピタルゲイン課税
A社が保有するB社株式の株式譲渡によって発生するキャピタルゲインはインド国内で発生した所得と見なされ、インド外国法人であるA社であってもインドにて課税されます(インド所得税法第5条、9条1項1号、45条)。A社が24か月以上に渡って保有した非上場法人B社の株式を譲渡した場合に、発生するキャピタルゲインは長期キャピタルゲインの分類となり、株式譲渡対価から当該株式取得費用等を差し引いたネットの金額が課税所得として課税されます(同法第2条29AA項、42A項、第48条)。
インド外国法人であるA社が、インド国内の非上場法人に関して得たこの長期キャピタルゲインの税率は12.5%(+加算税(Surcharge)、健康教育目的税(Health and Education Cess))で、分離課税されます(同法第112条1項c号)。キャピタルゲインの税率は保有する株式の期間や性質、株式の保有者の区分によって変わってくるので各株式譲渡取引ごとに税率の検討が必要となります。
株式の買主で源泉徴収するTDS
次に、株式譲渡に関して第三者(買主)がA社(売主)に譲渡対価を支払う際に、徴収が求められるTDSについてです。TDSの源泉徴収義務は、対価の支払い者である第三者にある点に注意が必要です。
所得税法第195条では、課税対象となる所得の支払いをインド外国法人に行う者は一定の税率(Rates in force)でTDSを源泉徴収することを求めています。本図解のように株式の対価支払いがインド外国法人の間で完結し、インド国内に対価が流入しない場合であっても、本株式譲渡取引がインドで課税対象となる以上は、株式の買主にTDSの源泉徴収義務が発生します。
一定の税率(Rates in force)は財政法(The Finance Act)又は租税条約にて規定された税率となります。(同法第2条37A項3号)、2024年度の財政法では、「インド外国法人の得る非上場法人株式の長期キャピタルゲイン」の税率は12.5%(+加算税(Surcharge)、健康教育目的税(Health and Education Cess))と規定されています。
第三者側で、この株式譲渡に関してA社が得る長期キャピタルゲインのネット金額(株式譲渡価格 - 株式取得価格等)が判明している場合には、その長期キャピタルゲインのネット金額に税率12.5%(+加算税(Surcharge)、健康教育目的税(Health and Education Cess))を乗じてTDS額を計算するのが実務上は一般的です。なお買主は、源泉徴収すべき金額を正確に把握するため、売主に対して株式売買契約におけるクロージングの前提条件として、インド勅許会計士による税額証明書の提供を求めることもあります。
株式取得価格等の情報をA社に開示してもらえない等の理由で、第三者側でA社の得る長期キャピタルゲインの金額が判明しない場合は、株式譲渡価格(グロス金額)に12.5%を乗じてTDS額を計算ことになると考えられます。ただ、グロス金額のTDS額で源泉徴収される場合、A社として実際の所得税額以上のTDS額が源泉徴収されてしまうことになるため、A社自身でTDS低税率証明書(Lower Deduction Certificate)をインド所得税当局から取得した上で、第三者に提出し、TDS低税率証明書の記載のTDS税率で源泉徴収してもらうこともできます。
なお、TDSの源泉徴収義務のある第三者にはインドのPANやTANの取得が求められ、通常の場合TDSを徴収した月の翌月7日までに徴収額をインド所得税当局に納税する必要があります(インド所得税法細則第30条2項)。また、四半期ごとにTDSの申告義務もあります(インド所得税法第206条)。
株式の売主であるA社はインドで得たキャピタルゲインに関して、インドでの所得税申告が求められます(同法第139条)。
執筆・監修
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鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
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新井 辰和 | Tatsuo Arai |