日本では法人にかかる所得については法人税が課税され、個人の所得については所得税が課税されます。一方インドではそのような区分はなく、インド所得税法(Income Tax Act, 1961)の中で個人・法人に対する所得への課税が規定されています。
申告期限はいつまで?
インドの税務年度は4月1日から3月31日になっており、法人税の所得税申告期限は翌年の10月31日です(インド所得税法第139条)。ただし、移転価格税制のコンプライアンス(インド所得税法第92E条)が適応される企業の申告期限は11月30日まで延長されます。
また、所得税申告が遅延した場合は5,000ルピーのペナルティーが発生します(インド所得税法第234F条)。ただ、総収入額が50万ルピー以下の場合のペナルティーは1,000ルピーです。
課税対象の所得及び法人税率は?
内国法人は全世界所得が課税対象ですが、外国法人はインドでの事業、その他インドで得たとされる所得がインドでの課税対象になります。
【2024年度】
2024年度の法人税率は下記の表の通りです。実効税率とは法人税率に所得金額に応じた加算税(Surcharge)と4%の健康教育目的税(Health and Education Cess)が加えられた税率です。2024年度の予算案では外国法人に適用になる法人税率が従来の40%から35%への減税が提案されました。
所得が1千万ルピー未満 | ||
法人区分 | 法人税率 | 実効税率 |
内国法人※ | 25% | 26% |
内国法人 | 30% | 31.2% |
外国法人 | 35% | 36.4% |
所得が1千万ルピー以上1億ルピー未満 | ||
法人区分 | 法人税率 | 実効税率 |
内国法人※ | 25% | 27.82% |
内国法人 | 30% | 33.38% |
外国法人 | 35% | 37.128% |
所得が1億ルピー以上 | ||
法人区分 | 法人税率 | 実効税率 |
内国法人※ | 25% | 29.12% |
内国法人 | 30% | 34.94% |
外国法人 | 35% | 38.22% |
※2022年度の総収入額が40億ルピー以下の内国法人
【2023年度】
2023年度の法人税率は下記の表の通りです。実効税率とは法人税率に所得金額に応じた加算税(Surcharge)と4%の健康教育目的税(Health and Education Cess)が加えられた税率です。
所得が1千万ルピー未満 | ||
法人区分 | 法人税率 | 実効税率 |
内国法人※ | 25% | 26% |
内国法人 | 30% | 31.2% |
外国法人 | 40% | 41.6% |
所得が1千万ルピー以上1億ルピー未満 | ||
法人区分 | 法人税率 | 実効税率 |
内国法人※ | 25% | 27.82% |
内国法人 | 30% | 33.38% |
外国法人 | 40% | 42.43% |
所得が1億ルピー以上 | ||
法人区分 | 法人税率 | 実効税率 |
内国法人※ | 25% | 29.12% |
内国法人 | 30% | 34.94% |
外国法人 | 40% | 43.68% |
※2021年度の総収入額が40億ルピー以下の内国法人
なお、インド特有の会計帳簿上の利益(調整後)の15%がインド所得税に基づいて算出された法人税額を上回る場合に支払う必要のある最低代替税(Minimum Alternate Tax - MAT)と呼ばれる法人税もあります。
新たな法人税制度
また内国法人に限り2019年度より一定の条件を満たすことにより22%(実効税率:25.17%)の法人税率も選択可能となりました。一定の条件とはインド所得税法第115BAA条で規定される各種税額控除(インド所得税法第10AA、32条、32AD条、33AB条、33ABA、35、35AD、35CCC、35CCDまたは80JJAA及び80M条を除くChapter VI-Aの控除)を使用せず所得を計算することです。
また、同様に製造業に関してはインド所得税法第115BAB条にて規定されており、上記と同様の条件を満たしかつ、2019年10月1日以降に設立され2024年3月31日までに製造開始した場合には15%(実行税率:17.16%)の法人税率が適用されます。しかし、製造開始期限である「2024年3月31日」の延長は2024年度の予算案では発表されず、実質的には2024年以降に法人設立を検討する企業はこの新税率を選択できないことになります。
一方で本税制度を活用する場合、インド所得税法第115JB条で定める最低代替税(Minimum Alternate Tax : MAT)が適用されなくなるため、過年度に既にMATを支払い、同税の税額控除が可能である場合にはその適用を慎重に検討する必要があります。
法人税の予定納税税額の納付
インドでは見積もり税額に対して、予定納税(Advance Tax)と呼ばれる法人税を年4回の中間(予定)納付が義務付けられています。尚、納付した前払税は仮払法人税として確定した法人税額より控除することが可能です。予定納付した税額が確定した法人税額の金額を上回る場合には還付の対象となります。
見積もり法人税額が1万ルピー以上の場合は下記の日程で法人税を中間納付し、不足分については翌年の所得税申告時までに納付する要があります(インド所得税法第208条)。
納付期限 | 納付しなければならない割合 |
6月15日 |
見積もり税額の15% |
9月15日 |
見積もり税額の45% |
12月15日 |
見積もり税額の75% |
翌3月15日 |
見積もり税額の100% |
また、下記に該当する場合には月当たり1%の延滞利息が発生するので注意が必要です(インド所得税法第234B条)。※ただし、キャピタルゲインや投機的な利益(ギャンブルや宝くじによるもの)が原因で中間納付額が不足する場合は延滞利息を支払う必要はありません。
- 納税額が1万ルピー以上にもかかわらず中間納付を行わなかった。
- 中間納付額が最終の法人税額の90%未満であった。
さらに、所得税申告が期日通り行われずかつ、所得税の未納額がある場合(インド所得税法第234A条)や上記の表の納付割合通りに中間納付されていない場合(インド所得税法第234C条)にも月当たり1%の延滞利息が発生します。
法人税の所得税申告に必要な書類は?
事前に源泉徴収税(TDS)として支払っている税額について、税額控除を利用するため「Form16A」と呼ばれる書類を四半期ごとに取引先から取得していただく必要があります。
また国外関連者と1ルピーでも取引がある場合は、移転価格税制が適用されForm 3CEB(移転価格証明書)の提出も求められます(インド所得税法第92E条)。当書類はインドの勅許会計士によって発行されるものです。所得税申告義務があるにもかかわらず、申告を行わなかった場合のペナルティ等はこちらをご参照ください。
欠損金は繰越可能ですか?
税務上の赤字がある場合は、繰越欠損金(Carry forward of losses)としてその損失は翌年以降に繰り越すことが可能です。繰越欠損金を将来8税務年度まで繰り越すとことが可能です(インド所得税法第72条)。なお、繰越欠損金の控除を使用するには、欠損金の生じた年度において適切に税務申告書を提出し、その後の税務年度においても連続して税務申告書を提出している必要があります。
繰越欠損金の引き継ぎ制限
繰越欠損金を有する特定会社(a company in which the public are substantially interested)でない会社のうち49%超の議決権を有する株式譲渡等による持ち分の変更があった場合、欠損金の繰り越しを適用することができません(インド所得税法第79条1項)。
一方でインド所得税法第80IAC条に定める適格スタートアップの要件を満たす会社については、設立から10年間分の欠損金繰越が適用されます(インド所得税法第79条2項)。
執筆・監修
鈴木 慎太郎 | Shintaro Suzuki |
新井 辰和 | Tatsuo Arai |